─星が溢れる─
ある小さな町に、ひとつの星が落ちてきた。
それはダイヤのように輝き、吐息が漏れるほど美しかった。
星は博物館に飾られ、町の人々はそれが誇らしかった。
しかし、星が落ちてきた町の何倍も栄えている、
隣国の王様にもその話が届いてしまった。
王様は嫉妬から、その小さな町を襲った。
星は奪われ、大怪我を負った人も少なくなかった。
それをお構い無しに、隣国の王様は綺麗な星を眺めていた。
手で触ると石のように硬く、でも何処にでもある石とはまったく違うモノだった。
その日の夜、寝付けなかった王様は見た。
奪った星が砂のようなモノになってサラサラと消えていくのを。
そしてその奥の窓からは、自分の国に星が降り注いでいるのが見えた。
空から落ちてくる星たちは家を壊し、国を壊し、国民の心をも壊していった。
夜中に響く人々の声。それとは裏腹に美しく降る星たち。
王様は、その光景に小さく吐息を漏らした。
人が亡くなると、夜空の星になって輝くらしい。
昔、星が降り注いだと言い伝えられた国では、
一夜にして美しい星が溢れたらしい。
─月夜─
「満月の今夜、光輝く瞳の貴方を頂戴する。」
星が煌めく空から、颯爽と現れた男は言った。
開け放たれた窓からは、
冷えた風によりカーテンは靡き、
月明かりは窓辺に立つ彼を引き立たせる背景になっている。
そして、彼が私の方を向いた瞬間、見えていなかった顔が見えた。
それは数年前、失踪した私の彼に似ていた。
私の家は裕福な為、庶民だった彼と付き合うことは許されなかった。
失踪した時は本当に悲しかったが、今こうして会えた。
偽物だという考えはひとつもなかった。
彼は近づき、手を取って言った。
「お嬢さん、貴方を幸せにさせてくれませんか?私に、拐われてくれませんか?」
彼の目には、うっすらと涙が滲んでいた。
そんな彼にかける言葉は、ひとつしかなかった。
「はい、よろこんで」
満月の美しい月夜に監視カメラに映ったのは、
楽しそうに、幸せそうに笑う、二人の男と女だった。
─たまには─
ねぇ、返事ぐらいしてくれてもいいじゃん。
君は私を、過去の関係だからって切り捨ててさ、
もう終わりだって、他人と変わらないって言うの?
確かに、私と君は最悪な別れ方をしたよ。
嫌いになるのもわかる。
でもさ、嫌いなんなら、
「もう関わらないで」とか言えばいいじゃん。
そしたらこの関係に、けりをつけられるから。
過去を諦めて、新しい恋を探そうと思うから。
これで、10回目のLINEだよ?
ねぇ、たまには、本当にたまにでいいから、
短い文でも、悪口でも、なんでもいいから。
だから、返事をして。
私を、安心させて。
─物憂げな空─
チャイムが鳴り、
クラスメイトが教室から出ていく。
僕も例外ではなく、廊下へ出る。
いつも一緒に帰る友達は、今日は休み。
一人で歩いて玄関に向かう。
靴を履き替え、また歩く。
駐輪場で自分の自転車を探し、鍵を回す。
いつもの見慣れた道を、ただ走る。
鼻歌なんか歌ったりして。
いつもと変わらない日々、
いつもと変わらない光景、
いつもと変わらない行動。
唯一変わっていたものは、
玄関前で見た、物憂げな空だけだった。
─誰もがみんな─
世界には、様々な生き物が居る。
当たり前のように息を吸って、吐く。
仕事をしたり、学校へ行ったり、
逆に何もしなかったり。
でも、それだけで生きていられる。
幸せでいられる。
誰もがみんな、“当たり前”を信じて、今日を生きる。
だがそれが、僕には辛かった。
勿論、息を吸って吐くことなら、最初からできていた。
しかし、大人になるに連れ周りの“当たり前”が分からなくなった。
そんな僕は、「邪魔」「消えて」「うざい」と言われていった。
なんで、そんなことを言うんだ。僕は悪くないだろう。
世界が悪いんだろう。世界が可笑しいんだろう。
“勝手に”当たり前を作って、“勝手に”それを押し付けて、
“勝手に”それが出来ないと見捨てて、“勝手に”罵倒の言葉を浴びせる。
そんな世界、可笑しいだろう?苦しいだろう?
生きたくないと、思っても仕方ないだろう?
本当、生きていたくない。
それが叶わないのなら、息をしているだけで、褒めておくれ。
生きてるだけで、うんと沢山、褒めてくれ。