人さがし

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3/15/2024, 2:50:23 PM

─星が溢れる─

ある小さな町に、ひとつの星が落ちてきた。

それはダイヤのように輝き、吐息が漏れるほど美しかった。

星は博物館に飾られ、町の人々はそれが誇らしかった。

しかし、星が落ちてきた町の何倍も栄えている、

隣国の王様にもその話が届いてしまった。

王様は嫉妬から、その小さな町を襲った。

星は奪われ、大怪我を負った人も少なくなかった。

それをお構い無しに、隣国の王様は綺麗な星を眺めていた。

手で触ると石のように硬く、でも何処にでもある石とはまったく違うモノだった。

その日の夜、寝付けなかった王様は見た。

奪った星が砂のようなモノになってサラサラと消えていくのを。

そしてその奥の窓からは、自分の国に星が降り注いでいるのが見えた。

空から落ちてくる星たちは家を壊し、国を壊し、国民の心をも壊していった。

夜中に響く人々の声。それとは裏腹に美しく降る星たち。

王様は、その光景に小さく吐息を漏らした。


人が亡くなると、夜空の星になって輝くらしい。

昔、星が降り注いだと言い伝えられた国では、

一夜にして美しい星が溢れたらしい。

3/7/2024, 10:19:30 PM

─月夜─

「満月の今夜、光輝く瞳の貴方を頂戴する。」

星が煌めく空から、颯爽と現れた男は言った。

開け放たれた窓からは、

冷えた風によりカーテンは靡き、

月明かりは窓辺に立つ彼を引き立たせる背景になっている。

そして、彼が私の方を向いた瞬間、見えていなかった顔が見えた。

それは数年前、失踪した私の彼に似ていた。

私の家は裕福な為、庶民だった彼と付き合うことは許されなかった。

失踪した時は本当に悲しかったが、今こうして会えた。

偽物だという考えはひとつもなかった。

彼は近づき、手を取って言った。

「お嬢さん、貴方を幸せにさせてくれませんか?私に、拐われてくれませんか?」

彼の目には、うっすらと涙が滲んでいた。

そんな彼にかける言葉は、ひとつしかなかった。

「はい、よろこんで」


満月の美しい月夜に監視カメラに映ったのは、

楽しそうに、幸せそうに笑う、二人の男と女だった。

3/5/2024, 5:05:30 PM

─たまには─

ねぇ、返事ぐらいしてくれてもいいじゃん。

君は私を、過去の関係だからって切り捨ててさ、

もう終わりだって、他人と変わらないって言うの?

確かに、私と君は最悪な別れ方をしたよ。

嫌いになるのもわかる。

でもさ、嫌いなんなら、

「もう関わらないで」とか言えばいいじゃん。

そしたらこの関係に、けりをつけられるから。

過去を諦めて、新しい恋を探そうと思うから。

これで、10回目のLINEだよ?

ねぇ、たまには、本当にたまにでいいから、

短い文でも、悪口でも、なんでもいいから。

だから、返事をして。

私を、安心させて。

2/25/2024, 4:24:18 PM

─物憂げな空─

チャイムが鳴り、

クラスメイトが教室から出ていく。

僕も例外ではなく、廊下へ出る。

いつも一緒に帰る友達は、今日は休み。

一人で歩いて玄関に向かう。

靴を履き替え、また歩く。

駐輪場で自分の自転車を探し、鍵を回す。

いつもの見慣れた道を、ただ走る。

鼻歌なんか歌ったりして。

いつもと変わらない日々、

いつもと変わらない光景、

いつもと変わらない行動。

唯一変わっていたものは、

玄関前で見た、物憂げな空だけだった。

2/10/2024, 12:57:19 PM

─誰もがみんな─

世界には、様々な生き物が居る。

当たり前のように息を吸って、吐く。

仕事をしたり、学校へ行ったり、

逆に何もしなかったり。

でも、それだけで生きていられる。

幸せでいられる。

誰もがみんな、“当たり前”を信じて、今日を生きる。

だがそれが、僕には辛かった。

勿論、息を吸って吐くことなら、最初からできていた。

しかし、大人になるに連れ周りの“当たり前”が分からなくなった。

そんな僕は、「邪魔」「消えて」「うざい」と言われていった。

なんで、そんなことを言うんだ。僕は悪くないだろう。

世界が悪いんだろう。世界が可笑しいんだろう。

“勝手に”当たり前を作って、“勝手に”それを押し付けて、

“勝手に”それが出来ないと見捨てて、“勝手に”罵倒の言葉を浴びせる。

そんな世界、可笑しいだろう?苦しいだろう?

生きたくないと、思っても仕方ないだろう?

本当、生きていたくない。

それが叶わないのなら、息をしているだけで、褒めておくれ。

生きてるだけで、うんと沢山、褒めてくれ。

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