─1000年先も─
綺麗な夕日を見た。
それは鮮やかなオレンジで、
吐息が出る程キラキラと輝いていた。
この世界には、僕のまだ見ぬ景色が広がっている。
全部を見たいなんて願望は言わない。
ただ、その沢山の美しい景色が100年、
否1000年先も続いて行くことを願う。
誰かがそれを見て泣いて、
誰かがそれを見て喜んで、
誰かがそれを見て笑って。
そんな小さなことで、誰かが幸せになれるのなら。
僕はそれ以外、何も望まないよ。
─優しさ─
「僕にはその優しさが辛いんだよ!!」
お前が珍しく大声をあげた。
今までそんなことなかったのにという驚きと、言われた悲しみが襲ってきた。
きっかけは多分俺とお前の違いだろう。
いつもいじめのようなことをされていたお前と、いつも笑う俺。
お前へのいじめを俺は止めていた。お前を助けるために。
でも意味がなかった。あまりのショックに、思ったことが声に出てしまった。
「…ふざけんなよ。今まで助けてやったのは誰だよ!」
「君が勝手にしたんだろう?!そのせいで、僕は…!!」
そう言ってお前は、俺のせいでいじめがひどくなったと話した。
「なんでお前みたいな陰キャが、陽キャの君と絡んでるんだって」
お前は泣きながら、痛くて辛くて苦しかったと話した。
「…俺の優しさ、無駄だったんだな。ごめんな。」
君はそう言って、去っていった。
「…ごめん、ごめんよぉ。」
俺のエゴなのに。君に見下されてるように感じて。
もういっそのこと楽になろうって、関係を終わらせて。
君の優しさに縋ってたのは、僕なのに。
「どうしたら、良かったの…?」
君の去った教室には、僕の声だけが木霊した。
─こんな夢を見た─
最近、友達が変な夢を見るようになったらしい。
内容は女の子が電柱から覗いて、ずっと見てくるらしい。
その女の子は、昔近所に住んでいた年下の子で、
よく遊んでいて妹のような存在だったと友達は話す。
どうやら火事で亡くなってしまったらしい。
もうかれこれ1ヶ月近く続いているのだ、と友達は言った。
そんなある日、いつもと違う夢を見たらしい。
いつもは電柱から覗いている女の子が目の前に来て、
何故か持っていた包丁で刺されてしまったらしい。
そして自分の目の前であることを言った。
何を言ったのか気になったが、忘れてしまったらしい。
数日後、夢を話した友達に殺されかけた。
凶器は夢でみた女の子の持っていた包丁とそっくりで。
近くに通り掛かった人に通報され、友達は捕まった。
夢の中で女の子がした行動全てが、捕まった友達の動きにそっくりだった。
夢の中で女の子が言った言葉の後に、僕は刺された。
「おにーさんね、おともだちにころされるよ。こんなふうにね。」
警察に捕まって、パトカーに乗るとき、友達は言った。
『夢の女が居なければ、お前を殺せたのにな。』
─海の底─
部屋の掃除をしていた時、ふと目についた。
中学校の頃の卒業アルバム。
今は大学生だから、結構昔の物だった。
中学校の思い出といったら、彼氏ができたことかな。
平凡な学生だったのに、行動力は人一倍あって。
入学してずっと好きだった人に告白した。
相手は一つ上の先輩で、校舎で迷った時に助けてもらって惚れたんだっけ。
先輩は少し悩んだ後、優しい笑顔で「いいよ」って答えてくれて。
それからデートとかも行ったけど、ある日パタリと音信不通になった。
やっと登校してきた時には一年近く経っていて。
なんでって問い詰めても何も言わないし。本当にショックだった。
でも急に「会いたい」って言ってきて。
不思議に思いながらも会ったその時、
貴方が打ち明けてくれた。重度の鬱病になってたって。
友達に裏切られて、誰も信用できなくて、誰にも相談できなくて。
まるで海の底にただ一人、沈んでるみたいだったのだと。
心を落ち着かせるのに、一年も掛かったのだと。
でもそれを乗り越えて、今は私の隣で笑ってくれている。
その笑顔を見るだけで、私は幸せだ。
辛い過去を思い出す暇も無いくらい、笑わせてあげたい。
私はそう、心に誓った。
─閉ざされた日記─
月が綺麗な夜だった。
貴方は言ったの、私が一番聞きたくない言葉を。
「ごめん、別れよう」って。
理由も言わずに、私の「待って!」の声も聞かずに。
あの夜は、ずっと泣いてたわ。
理由が分からないことが、どれだけ怖いか。
私が悪かったのか、最初から貴方のおもちゃだったのか。
だって私たち、同棲もして、恋人らしいことは大体したじゃない。
それだけ別れを否定したくて、理由をずっと考えてたの。
でもね、数日後にきた貴方の妹さんの連絡で、また泣いたわ。
貴方、癌だったなんて、一言も言わなかったじゃない。
貴方は私を傷つけないために別れたんだろうけど、それが一番辛かった。
貴方の葬式も行ったわ。貴方、とても幸せそうだった。
家に帰ってね、貴方がずっと見せてくれなかった日記を読んだの。
ずっと閉ざされた日記だったけどね、貴方が見せない理由が分かったわ。
だって、いつも好きって言ってくれないくせに、日記には書いてあるのだもの。
「大好き」って。「愛してる」ってさ。
本当、貴方って人は、ずるいわね。