旅路の果てに
重い荷物をおろして、扉を閉めて宙を見上げた。このまま旅に出ようかと、口元は歪んだような笑みを浮かべていた。
風は冷たいはずなのに、真っ暗な世界は不思議と温かい。
僕の背中には、まだ荷物の重さがこびり付いていて、離れない。「君には責任があるんだ」と、そいつは肩を叩いて足枷を付けた。
分かっている。
旅路の果てに在るのは、自由への代償。
罪悪感と自己嫌悪と墮落の日々。
僕は、温かな皮を被った「まいにち」を捨てられない。
閉めた扉をもう一度開けて、重い荷物を運ぶことした。
誰も気が付かず、運ぼうともしない。
僕の想いも、ついでに詰め込んで。
あなたに届けたい
冷たく澄んだ風の中の朝陽の匂い
少し焦げたような太陽の光
寂しい顔をした茜色の空と雲模様
宝石みたいなオリオン座
僕の全ては、あなたには届かない。
僕は僕で。あなたはあなただから。
「パパとママは心だけ隠して産んでくれた」
「神様は心を深くに作った」
って、優しい声の誰かさんが歌ってたでしょ?
そうしないと、僕は僕で居られない。
そうしないと、あなたはあなたで居られない。
僕があなたで、あなたが僕なら、恋も愛も…くだらない笑い話だってできないじゃない?
全てが同じなんて、つまらない。
宇宙から見た一生なんて、一瞬なんだから。
どうせ一瞬。生きるなら、面白くないとね。
I LOVE...
最後に観たドラマの主題歌だったかな。
あんなに一途に人を想えたら、想い合えたら、幸せなのかな。そのドラマの続編みたいなものは、忙しくなって観られなくなってしまった。
僕の全てはあの頃からあの子に捧げてしまったから。
髭男さんは後でゆっくり聴きたいなと想っている。マツコさんの番組でお話しているのを聴いて、より一層、そう想った。
I LOVE...
続く言葉を素直に言えたら…、なんて。
「愛」が何なのかも定まらない僕には、まだまだ出来そうもない。
街へ
体調は万全とは言えない。
寝惚けた頭でどの服にしようか、考える。
迷路みたいな地下をたくさん歩くようだから、スニーカーだな。ヒールを履きたいところだけど、また今度。
前はフェミニンな感じだったから、今度はクールな感じにしよう。タイトなジーンズ、ざっくりニットに長めのシャツを合わせよう。ニット帽を被りたい…けど、子供っぽいか。やめておこう。
小さい鞄に色々と詰め込んで、忘れ物がないか確認。
鏡の前で最終チェック。
「まぁいいや」がお決まりの台詞。
ちょっと砂埃で汚れたスニーカーで地面を鳴らして、走り出す。電車は待ってくれない。
クールに決めそこねた僕を君は「かっこいいね」と言ってくれるだろうか?
君と一緒に歌ったあの曲を聴きながら、流れる風景をぼんやりと眺める。
ドアが開く度、見知らぬ人が忙しなく、でも慣れた様子で座る場所を探す。新参者の僕は、不安と期待、緊張に目を瞑り、騒がしくなっていくゆりかごに揺られて進む。
あと、もう少しだ。
君の待つ街へ。
優しさ
今までで1番難しいお題かもしれない。
よく人から「優しいね」と言われるし、人に優しくする以外の選択肢のようなものが、自分にはない。
「厳しさの中の優しさ」と言われるものは、出来ないし、そうされても気が付けない。
自分にとって「厳しさ」は叱責でしかない。だから、人に厳しく接する事はできない。
人を傷付けたくない。
人から傷付けられたくない。
人間が苦手で、少し怖い。
優しさは、僕を守るためのスキルなのかもしれない。
「あなたに優しくしますから、僕にも優しくしてくださいね?」両手を挙げたポーズをすることで、弱い自分を守っている。
だから「優しいね」と言われると、否定したくなる。
「本当は優しくなんてない、ただの弱虫です。」って。
でも言えなくて、「そんなことないよ」と愛想笑いしてしまう。
ほらね?また、僕は僕を守ってる。
僕は、ただの弱虫だよ。