海月 時

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7/19/2024, 3:08:23 PM

『ようこそ。生者の未来を記す図書館、生人図書館へ。何をお求めかい?』
「いつも僕を虐めてくるあいつの、未来が知りたい。」
『知ってどうする?より惨めになるかもよ。』
「どうするかは、知った後に考えるよ。」
『喰えないね〜。先に言っとくが、未来はコロコロ変わる。見た内容が、本当かは分からない。』
「分かったよ。」
『お前を虐めてる奴は、結果から言えば成功者となる。』
「…世界って、不公平だね。」
『そうだな。でも、俺はこの世が好きだな。不公平だからこそ、自分の欲を解消できるってもんよ。』
「そうかな。そうかもね。」
『おい、どこに行く気だ?』
「どこって、帰るんだけど。」
『何言ってるんだ?ここからが本題だろ。』
「何だよ?」
『復讐だよ。とりあえず、今までの借りを返そうか。』
「そんな事しても意味がない。それに、そんな事して僕が捕まったらどうすんだよ。」
『じゃあこのまま、惨めな姿で生きるか?それも面白いかもな。』
「何が言いたい?」
『どっちに転ぼうが、お前の未来は暗闇だ。それならば、この世の不公平さを叫びながらが良いだろ?』

『視線の先に暗闇しか見えなくても、お前は前に進めるか?お前の復讐という喜劇の物語を読みながら、本日もお待ちしてます。』

7/18/2024, 4:15:55 PM

「何がしたいんだよ。」
焦った声で彼が聞く。私の願いは只一つだけだ。

「こんばんわ。死んでください。」
私は見知らぬ彼に、刃を向けた。しかし、彼は微動だにしなかった。
「殺したいなら、殺せ。」
彼は何事もないかのように言った。違うんだよなー。これでは、面白くない。抵抗する相手を殺す事が、楽しく面白いのだから。
「やっぱり、辞めときます。」
私が立ち去ろうとした時、彼は少し焦ったように言った。
「自己中な野郎め。何がしたいんだよ。」
「貴方は何がしたいんですか?」
彼は少し間を空けて、私に話し始めた。
「死んだ女房と娘に会いたいんだよ。あいつ等、俺を残して事故で死んじまった。俺は何度も自殺しようとしたが、震えが止まらねーんだ。そんな時にお前が現れた。」
「そうですか。」
私は考えた。死を望む彼に、どのような苦しみを与えようか。私を死んだ理由に使おうとした罪は重い。
「それで、お前は何がしたいんだよ。」
「私ですか?そうですね。」
名案を思いついた。面白さもスリムも、絶望も満点。僕は自分の腹に刃を立てた。
「貴方は自分で死ぬ事ができず、一生どん底に居てください。貴方のような人間には、惨めな姿が似合いますよ。」
「何故そこまでする?」
「笑っていたいから。」

昔から夢見ていた。世界が終わる最後まで、笑うのは私だけが良いと。そのためなら、私はどんな大罪も怖くない。さて、これからどうしようか。まずは、神でも殺そうか。

7/17/2024, 3:48:22 PM

「僕の事、忘れないでね。」
本当に馬鹿だな。人間は忘れる生き物なのに。

『何してるの?』
僕が聞いても彼女は何も言わない。ここは駅のホーム。そこに一人の彼女。誰かを待っているようで誰も待っていないような、何処か掴めない雰囲気を持つ彼女。僕は彼女の事を知っている。
『ねぇ、もう諦めたら?』

あれは数年前。僕達に悲劇が訪れた。彼女が【若年期認知症】と診断されたのだ。診断された後からは、より症状が悪化していった。家族の顔も、友人の名前も、僕の存在も彼女は忘れていった。
「良くなったら、電車で旅とかしようよ。」
彼女の記憶から消える事が、ただ怖かった。だから何度も願った。しかし、願いは届かなかった。
「僕の事、忘れないでね。」
彼女は僕を忘れる。これは変わらない事実なのに。僕はいつまで、夢を見ているんだろう。もう嫌だ。彼女の窶れた姿は見たくない。彼女の記憶から消えたくない。もう逃げてしまいたい。僕は彼女からも、現実からも逃げたんだ。死という道を選んで。

『誰を待っているか分からないけど、誰も来ないよ。』
僕は彼女から逃げたくせに、死んでなお彼女に会いに来てしまった。本当に馬鹿だ。僕も、君も。
「誰かに電車で旅をしようっ言われた気がするの。誰かは忘れた。でも、その人がすぐ近くに居る気がする。」
こんな小さな言葉を覚えててくれたんだね。僕は泣き出した。そんな僕を見て彼女は困った顔をした。
「私、貴方に会った事がある気がするわ。」
『さぁ、どうだろうね。』

遠い日の記憶を、辿る。そして願う。もう一度彼女と、恋に落ちる日を願う。

7/16/2024, 1:39:13 PM

「お前みたいに生きれたら良かったよ。」
何でこんな事言ってしまったんだろう。

「何で私ばっかり。」 
これが私の口癖だった。何で私ばっかり、無視されるのだろう、適当に扱われるのだろう、雑用を押し付けられるのだろう、不当な説教を受けるのだろう。心に溜まったモヤモヤを友人にだけは話せた。周りの人にこの事を話したら、きっと私は異物のように扱われる。皆、今の状況を幸せに思っているのだから。皆の幸せが私には、苦痛だった。こんなの、誰を認めてくれない。でも、友人だけは私の話を聞いても、傍に居てくれた。この事が私にはどれだけ救いだっただろうか。でも、嫌な所もある。それは、友人が正しい事だ。いつだって、自分なりの答えを持っていた。その事が嫌だった。私には味方が居ないように感じたんだ。私は鼻声になりながら言った。
「お前みたいに生きれたら良かったよ。」
お前みたいに自由に生きたい、お前みたいに何も考えずに生きたい、お前みたいに自分優先で生きたい。言った後に思う。私はなんて最低なんだ。友人が適当に生きてる訳がない。たくさん悩んで考えたから、今があるのに。きっと私は、ムカついていたんだ。いつも楽しそうな彼女に。本当に自分の醜さに、嫌気が差す。

空を見上げる。空は惨めな私への当てつけのように、晴れていた。何で泣いた日の空は、こんなにも綺麗なのだろうか。

7/15/2024, 4:08:02 PM

「ごめんね。」 
何度目だろう。彼にこんな顔をさせたのは。

「ずっと私の事守ってくれる?」
昔、彼に聞いた事があった。私にとって彼は運命の人で、白馬の王子様だった。そんな彼にずっと傍にいて欲しくって、ずっと守って欲しくって、聞いたんだ。
「もちろん。ずっと君の傍で、君だけを守るよ。」
彼は言ってくれたんだ。私の事を煙たがる様子もなく、太陽のような笑顔で言ってくれたんだ。私はその事が嬉しくって、毎日のように聞いてたっけ。でもその事が、彼を苦しめるなんて。

高一の夏、私は事故に遭い死んだ。

「守れなくてごめんね。傍に居れなくてごめんね。」
私が死んでから、彼は月に一回、私の墓参りに来てくれた。その度に、墓石に向かって謝っては泣いていた。その姿を見る度に、胸が締め付けられた。彼は何も悪くないのに。私が悪いのに。もうこんな彼の姿見たくない。もう彼を縛りたくない。ならばもう、終わりにしよう。

もう彼に会いに行かない。彼に憑かない。彼に恋をしない。最初からこうすれば良かったんだ。私は死んだ。その時点で、私の恋は終わったんだ。でも心の底では、彼がまた太陽のような笑顔で私を呼んでいる、そんな夢が消えないでいる。
『あぁ、失恋ってこんなに苦しいんだ。』
『そうだよ。俺も君が居なくなって、苦しかったよ。』
後ろを振り向く。彼が笑顔で立っていた。
『君の傍で、君を守るために。逢いに来たよ。』
私の恋は終わったはずなのに。私はまた、彼に恋をした。

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