海月 時

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5/2/2024, 11:48:18 AM

「もう、僕に関わらないで。」
その言葉を聞いた時、私は何も言えなかった。ただ、君の優しさに涙した。

「久しぶりだね。」
私は何事も無かったように、彼の居る部屋に来た。彼は驚いた顔を見せたが、すぐに険しい顔をした。
「何でここに来たの?」
当然の反応だ。私は先日、彼に拒絶されたのだ。それでも会いに来させたのは彼への執着心だろう。
「お見舞いだよ。それと、君と話をしに来た。」
「知ってたんだね、病気の事。黙っててゴメン。」
思っていたよりも素直だ。元々君は、嘘が苦手だったけ。そんな所も君の優しさだ。でも、優しさは時に人を苦しめる。私はその一人だ。
「あと、どれくらい生きれるの?」
「良くて2ヶ月。」
彼は俯きながらも答えてくれた。でも、その声は震えていた。
「何で黙って、私から離れようとしたの?」
「君には僕が死んだ後、泣いて欲しくないから。ずっと笑顔でいて欲しいから。でも、君と会わない日々が続く程、君と離れたくなくなるんだ。」
真っ直ぐな思いに、頬が熱くなる。それと同時に、愛しさが込み上がる。
「本当に馬鹿だな〜。そんな事で、嫌いになんてならないよ。」
この言葉を聞いて、彼は泣き出した。私は彼の涙を拭いだ。彼はありがとうと呟いていた。

あれから2ヶ月後。彼は亡くなった。そして今私は、彼の葬式会場の隅にいる。
「こんな思いをするなら、優しくして欲しくなかった。」
平気と言っておきながら、結局は耐えられなかった。自分の身勝手さに嫌気が差した。自嘲しながらも、涙が止まることはなかった。

5/1/2024, 12:55:00 PM

「綺麗だね。」
目がチカチカするほどカラフルな花火を見て彼女は呟いた。その目には涙が浮かんでいた。無力な俺はただ、手を握る事しか出来なかった。

「花火を見に行こう。」
彼女は宣言するように、立ち上がった。
「駄目に決まってるだろう。先生に怒られるぞー。」
俺は彼女に諦めるように言った。言ったはずなのに。俺達は今、花火会場に居る。何でこんな事に。俺は深い溜め息をついた。
「見てみて!虹色の綿あめだよ!」
俺の気も知らずに、屋台ではしゃぐ彼女。
「何でいきなり花火が見たいって言ったんだよ。」
「あー、その理由?…私、もうすぐ死ぬの。」
彼女は暗い表情でそう言った。何を言っているのか分からなかった。分かりたくなかった。ただ死という言葉が頭に響いた。
「病気、そんなに深刻なのか?」
「うん。あと半年生きれたらいい方だって。だからね。これが最後の我儘。付き合ってくれる?」
俺は黙って頷いた。彼女の病気が重いことは知っていた。しかし、こんなに早いとは。俺が掛ける言葉を探している間に、花火開始のアナウンスが流れた。
「ほら、花火見よ!」
いつもの元気な声で俺に言った。俺は花火を見る気にはなれなかった。花火大会が終わり、周りの人が居なくなった時、俺は重い口を開き、下手に笑いながら言っんだ。
「俺からも我儘いいか?まだ生きててくれ。少しでも長く、お前の傍に居たいんだ。」
彼女は大粒の涙を流した。
「我儘すぎるよ。でも、私も君の傍にずっと居たい!」
彼女は笑いながら、俺と約束をしてくれた。また来年も花火を見ると。

彼女は俺との約束を守ったあと、息を引き取った。葬式の時は、彼女の周りに花火のようなカラフルな花束が飾られていた。綺麗だねと小さな声で呟いた。

4/30/2024, 11:35:02 AM

「楽園に行きたいな〜。」
ずっと思っていた。その願いを叶えるために、この日まで生きてきた。僕の楽園はー。

「物騒な世の中だなー。安心して眠れやしない。」
先輩が新聞を読みながら言う。きっと、巷で騒がれている殺人鬼の事件を見ているのだろう。
「その為の僕ら、警察官じゃないですか。」
僕は仕事をしながら言う。
「言うようになったじゃねーか。」
先輩は大口で笑いながら、新聞を置いた。
「それにしても、誰が犯人なんでしょうか?先輩は分かりますか?」
実は、僕は犯人を知っている。そして今日、その話をするために、先輩を誰も居ない部屋に呼び出したんだ。
「俺は分かるよ。」
やっぱり。先輩は気付いていながら、黙っていたんだ。こんな奴にも優しいんだな〜。
「お前なんだろ?殺人鬼ってのは。」
僕は静かに頷いた。
「なんでこんな馬鹿げたことしたんだよ。」
「楽園に行きたかったから。」
僕の言葉を聞いても、先輩は動揺しない。
「皆さんにとって天国が楽園であるように、僕にとっては地獄こそが楽園なんです。」
理解して欲しいなんて思っていない。ただ知って欲しかったんだ。今から先輩を殺す理由を。
「はぁ~。そうかよ。俺を殺すんだろ?早く殺れよ。」
本当に勘のいい人だ。僕はナイフを先輩に突き出した。
「最後にいいか?」
恨みごとだろうか。僕はナイフを下げた。
「自分らしく生きろよ。」
予想しない言葉が発せられた。
「じゃあな。楽園、行けるといいな。」
そして、僕は先輩を殺した。僕の頬には、熱いものが流れている。
「貴方が今までで一番、殺しにくかったですよ。」
そして僕は、自分の腹をナイフで刺した。

4/29/2024, 1:15:07 PM

「風になりたいな〜。」
彼はよく言っていたっけ。今そんな事を思い出す私はきっと狂っている。自らを嘲笑いながら、私はフェンスに足を掛けた。

「よし、死のう。」
突然そんなことを思った訳では無い。前々から飽き飽きだったんだ。私の最愛の人〝彼〟が自殺したあの時から。
彼はイジメを受けていた。それに気付いていながら手を差し伸べない、彼の両親、担任、クラスメイト、そして私自身。全員が加害者だ。それなのに罰せられることは無い。その全てを疎ましく感じていた。だから、今日死ぬのだ。この死は、罪滅ぼしだであり、自分保護のためなら相手を蹴落とす人間の醜さの証明だ。そして私は、彼が死んだ屋上へ向かった。

屋上のフェンスを乗り越えた先に、彼は居た。生前と変わらぬ、穏やかな優しい表情で私を待っていた。
『なんでここに来ちゃうかな〜。』
風に乗って懐かしい彼の声が耳に届く。
『僕はまだ君に生きて欲しかったのにな。』
そう言って彼は静かに泣いた。
「仕方ないじゃん。君がいない世界に何の価値もないんだから。」
私は彼が死んでから、この世界から色が消えた。何も感じなくなっていた。だから、彼に会いに逝くんだ。
「止めないの?」
『止めないよ。だって君、すっごい頑固じゃん。それに僕も会いたかったんだ。最低な彼氏でゴメンネ。』
彼は申し訳無さそうに言った。同じ気持ちだったんだ。彼だけが私を認めてくれる。やっぱり、最高の彼氏だ。私は彼の目を見て、笑顔で言った。
「今から逝くよ。」
彼は、泣きそうな顔で笑っていた。

その日、私は風になった。

4/28/2024, 1:25:40 PM

「俺には死など来ない。」
そういった時、確かに胸が痛かった。

永遠。響きは魅力的だが、呪いに過ぎない。俺は昔呪われたのだ。人でいう神という奴に。あいつらは本当にタチが悪い。遊びで俺の人生を滅茶苦茶にしたのだ。そのせいで俺は不老不死の体になった。最初は俺も喜んださ。だが、時が経つ事に気づいた。この呪いの残酷さを。俺の家族、友人、愛する人、全員死んだ。最初の頃は知人が死ぬたびに泣きまくった。だが、もう慣れた。感情は消え、痛みも感じなくなった。そして決めたのだ。もう誰も愛さないと。そのはずなのに。俺は過ちをまた犯そうとしていた。

目の前にいる彼女。先日、確かに俺は呪いを打ち明けた。気味悪がるのが普通だ。なのに彼女の目は、どこまでも澄んでいた。
「どうして俺の元に来た?」
「貴方が私に話をしてくれた時、泣きそうな顔をしていたから。」
当然の様に彼女は話した。
「俺は何千年も生き続けた化け物だぞ!怖くないのか?」
「全然。だって一番怖かったのは貴方のはずよ。貴方にとって私は一瞬の時を生きる子供でしかないわ。それでも貴方の側に居たいの。我儘かしら?」
そういった彼女の頬は夕日のように赤く、無邪気な表情をしていた。
「俺はもう誰も愛さない。愛したくない。だから君から離れた。君に嫌われたら楽になると思ったのに。」
「本当に貴方って人は。何千年も生きてるのに、そんな事も分らないのね。」
彼女は呆れた表情をして、俺を抱きしめた。
「貴方がどんな化け物でも、私は貴方が好きよ。」
その言葉を聞いた時、自然と泣いていたんだ。いつぶりだろう。悲しみじゃない、喜びだ。初めて認められた気がしたんだ。

あれから数十年。彼女は亡くなった。俺にとっては刹那のような日々だった。それでも、あの日のことも、彼女と過ごした日々も一生忘れない。俺の宝だから。そよ風が吹く。彼女が居るのかな?俺は空を見渡し、微笑んだ。

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