海月 時

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「風になりたいな〜。」
彼はよく言っていたっけ。今そんな事を思い出す私はきっと狂っている。自らを嘲笑いながら、私はフェンスに足を掛けた。

「よし、死のう。」
突然そんなことを思った訳では無い。前々から飽き飽きだったんだ。私の最愛の人〝彼〟が自殺したあの時から。
彼はイジメを受けていた。それに気付いていながら手を差し伸べない、彼の両親、担任、クラスメイト、そして私自身。全員が加害者だ。それなのに罰せられることは無い。その全てを疎ましく感じていた。だから、今日死ぬのだ。この死は、罪滅ぼしだであり、自分保護のためなら相手を蹴落とす人間の醜さの証明だ。そして私は、彼が死んだ屋上へ向かった。

屋上のフェンスを乗り越えた先に、彼は居た。生前と変わらぬ、穏やかな優しい表情で私を待っていた。
『なんでここに来ちゃうかな〜。』
風に乗って懐かしい彼の声が耳に届く。
『僕はまだ君に生きて欲しかったのにな。』
そう言って彼は静かに泣いた。
「仕方ないじゃん。君がいない世界に何の価値もないんだから。」
私は彼が死んでから、この世界から色が消えた。何も感じなくなっていた。だから、彼に会いに逝くんだ。
「止めないの?」
『止めないよ。だって君、すっごい頑固じゃん。それに僕も会いたかったんだ。最低な彼氏でゴメンネ。』
彼は申し訳無さそうに言った。同じ気持ちだったんだ。彼だけが私を認めてくれる。やっぱり、最高の彼氏だ。私は彼の目を見て、笑顔で言った。
「今から逝くよ。」
彼は、泣きそうな顔で笑っていた。

その日、私は風になった。

4/29/2024, 1:15:07 PM