よしだ

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7/13/2025, 11:26:09 PM

あなたが真実を隠していることに
わたしは気づいている

そしてわたしはずっと、
見ないふりをし続けている

あなたがそれを隠した理由も、
その中身もわたしは知らない

あなたを愛しているとか、
知ることで傷つきたくないとか、
そんな理由じゃない

別にわたしは、
真実が欲しいわけじゃあないし、
反対に嘘が欲しいわけでもない

あなたに興味がないとか、
好意がないとか、
そんなことでもない

ただ単にわたしは、
あなたがわたしに、
あなた自身をそう見せたいのなら
それでもいい
そういう怠惰なのだ

「隠された真実」

7/12/2025, 4:09:20 PM

チリン、と澄んだ音のする風鈴は
想像するような硝子の風鈴ではなくて
向こう側なんて見えやしない鉄でできている

美しい春の音を奏でるうぐいすの姿は
梅によく映えるようなみどりではなくて
その幹に同化するような茶色をしている

虚構の陰にある真実は
けして
綺麗とは言えない姿をしているかもしれない

けれど、その虚構を支えたのは
陰から響くうつくしい音なのだ

「風鈴の音」

7/11/2025, 5:23:35 PM

ここ数日の記憶が無い
あるのは鈍く痛む頭と
鉛のように重たい身体だけ

思い返そうとしてみても
するりと軽く躱されて
本当にそこには何もないみたいだ

霧が隠しているよう、
なんていうけれど
ここにはその霧さえない

けれど、
確かに冷蔵庫の中身は減っていて
洗濯物が増えていて
カレンダーの日付は進んでいる

写真を見た

きっと置いてきたのだ
私の心、私の記憶
私の一部を

やむにやまれぬことだったのかもしれないし
愛ゆえに誰かにあげたのかもしれない
もしかしたら、ただのうっかりかもしれない

ただ、私にはその記憶さえないから
ぽっかり空いた空白の私を想って
影とと共に踊りながら
少しの寂しさと晴れやかさと、
切り取られた痛みを棺に入れて
ささやかな弔いをすることにしたのだ

再会は望めないことを知ったから
再会を望まない心を見つけたから

「心だけ、逃避行」

7/9/2025, 10:57:42 PM

この手紙が
あなたに届いてほしいとも、
ずっと届かずにいてほしいとも
思いながら投函する

この言葉が
あなたの心に伝わってほしいとも、
けして伝わらずにいてほしいとも
思いながら告げる

それは恋の臆病から来るものでもあり
それは愛の許容から来るものでもある

それは現実の否定をすることでもあり
それは恐れからの逃避をすることでもある

そして、
それは離別を否認するものでもあるかもしれない

この手紙が返ってきたとき、
そこにはきっと、喪失のみが残されている

「届いて……」

7/8/2025, 12:27:28 PM

あの日、私が目にしたすべては
既に記憶の地平線を越え
遥か彼方にある

思い出そうとすれば浮かぶのは
一枚の写真のようなイメージ

それは真実
私の瞳に映った景色ではなくて、
過去の囁きが輪郭を描き
今なお残る感情が色をつけたもの

私は、過去の私を
額縁を通して見ている

あの景色は、
私の記憶と感情が作り出した
私の未練のスケッチなのだ

「あの日の景色」

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