カーテンも閉まっていないのに
幽体の水に沈没したかのような
薄暗い部屋の中
いつもおしゃべりな口を
真一文字に結んで
雨の音に沈む君
リビングのソファに身を投げ出して
時々眉をしかめながら
瞳を閉じて晴れを待つ
まるで冬の蛹のように
火のついていない暖炉が
滲むようにつめたくて
ああ空よ早く
君のために晴れてくれと
「雨と君」
ふたりって、
人が二人いるってこと
だのに、とっても特別な響きがするのは
きっとたくさんのロマンチックと
たくさんのドラマがあったからなんでしょね
もしかしたら、
人はふたりからはじまるのかもね
それも、ずっとずっとむかしから
「ふたり」
言葉にならないものは
文字にもならぬのです。
けれどそれじゃあ味気がないから
それらそれらの輪郭の
小さいかけらと砂粒を
ぺっとここに置いておきます。
例えば
寝入る前の夢が染み出す心地
例えば
痛みと不快感のあいだの頭痛
例えば
抱きしめられた時の熱の波動
例えば
どうにもならない不安の痒さ
例えば
本当に美味しいものの美味さ
例えることは出来るかもしれませんね。
けれど本当に伝えたいことは
これじゃあ伝わらないのです。
「言葉にならないもの」
私に勇気があれば、
とっくのとうに
あの世にいるはずなので
これはまだなんとか私が生きている
弱虫の証なのです
「涙の跡」
私と同じ顔で、私と同じ性別で、
私と同じような年頃のひとが、
見知らぬ家で、見知らぬ人と微笑みあって、
見知らぬ赤子を抱いているのを見た
空に舞うほこりが
光を受けてきらきら輝く
まるで
スノードームの中の世界のような
そこが
過去にも未来にも、そして
平行世界のようにも見えた
西日の光で目が覚めた
狭いワンルームの小さなソファで
夢の中の彼女をおもう
私の胎に宿ることのない命をもつあのひと
私の隣には居ない人と暮らすあのひと
幸せそうだった
でも、うらやましいとはちっとも思わなかった
「真昼の夢」