ゴォン、ゴォン、ゴォオン
別れの時が来たのだと、
無情な鐘が時を告げた。
抱き合って、口付けて
涙を拭い合い
さようなら、の一言がかすれて消える。
そうして振り返って駆け出して。
がんがんがん
目覚めの時が来たのだと
無情な頭痛が朝を告げた。
頭を抑えて、唸りながら
恋がしてぇなぁ、
起きたくねぇなぁ
でも起きなきゃと
ベッド脇のメガネを探して
さまよった手がメガネを落とした。
やはり、現実はクソッタレである。
「時を告げる」
さり、さり、ざり
素足で歩く砂浜に
ぶちまけられた貝の亡骸たち
砂鉄に黒く染った砂浜を
白くしろく染めあげて
波に揉まれて砕け散った
貝殻たちが鈍く痛い
まだ生まれたばかりだったはずの
小さな巻貝がくしゃりとつぶれた
遠くで遊ぶこどもたちが
見つけた貝殻の大きさを競っている
きゃらきゃらとわらいあう声が
ピカピカ光る星みたいだった
帯のような夜色の浜に
星のような貝殻のかけら
なまあたたかい潮風と
沈む白黒の太陽が
私の意識をくらくらさせた
「貝殻」
声真似が得意な鳥、あれに結構あこがれる。私も線路の音とか喉から出してみたい。サイレンとかも。電話口とかでさ、相手をからかったりさ、楽しそうじゃない?まあもう電話する相手とか居ないわけですけども。
いやね、飛ぶのに憧れるのも分かるんだけど、ほら私高所恐怖症じゃない?風をうけて滑空とか、気分良いのかもしれないけど私としては恐怖しかないんよ。いや否定するわけじゃないんだけど。一度落ちたら二度と飛べなそうだし、普通に高いところゾワゾワするし。
ま、ね、どこまでも好きなように、特別じゃないといられない空を飛べるのはすごいと思う。旋回するタカとか、ね、いいよね。
でもやっぱりさ、綺麗な声で歌えたり、色んな声出せたりするの、いいなあって思うんだよね。あ、オスだけとかそういうツッコミはナシね。ほら、なんというかさ、どんなものにもなれる、みたいなさ。
あー、確かに長生きなのも、頭いいのもポイント高いよねぇ。美味しいし。あ、いや、ごめんって。ん?あ〜、私が鳥だったら、鳥だったらかぁ……。
歩く鳥がいいな。うん。みんなを見上げながら、ドスドス走るの。蹴り強いカンジ。でも声綺麗なこ達、みんな飛びそうなイメージなんだよなぁ。そしたらどうしよ、うーん。籠の鳥?かなぁ。
存分に可愛がられて、甘えて。翼切った奴を親と思い込んで懐くの。ご飯は向こうからやってきて。気まぐれに鳴いてよろこばれたり、電気ついてるのを昼間と勘違いして夜に鳴いて怒鳴られたり、ね。きっと平和すぎるくらいに平和だよォ。暇で死んじゃうかもしれないけど。
なにさ、自由じゃないのの何が悪いのさ〜!いいじゃん鳥が自由の象徴じゃなくたって。籠の外の鳥だってどうせ空に囚われてるんだよきっと。じゃあダチョウが優勝ってなるじゃん。しらんけど。
ま、ね、籠に入れて逃げられないようにするくらい愛されてみたい、とか?思っちゃうよね〜。実際やられたら逃げる一択なんだろけど。少し憧れる。いやまあ感傷的になってるのはそうなんだけどー、話振ってきたのあんたじゃーん。
…………
……うん、あんがとね、いつも。また会おね。次こそはー!てやつよ。うん。おしどり夫婦目指すわ!おしどりって実際は取っかえ引っ変えらしいけど。イテッ!へへ、ごめんごめん。んじゃね、またね。
「鳥のように」
人間へ
さよならを言う前に、ひとつだけ。
猫にほかの動物を見るのをやめた方がいい。
猫は猫だから。
ツチノコでもアザラシでも
鳥でもビニール袋でもない。
犬なんて言語道断。
猫だ。猫なんだよ。
そういうわけでさよならだ。
じゃあな。
猫より
P.S.家出の邪魔をするのはもっとやめた方がいい!
「さよならを言う前に」
夕暮れ時。
鴉の声と、子どもたちのざわめき。
またね、またねと手を振って、
それぞれが家路につく。
「またね」と再会を信じ、望む言葉。
いいな、素敵だな、と思う。
“また明日ね”と約束できる幸せ。
“また会おうね”と望まれる幸せ。
子どもでも
大人でも
どんな性別でも
どんな生活をしていても
どんな生い立ちをしていても
そんな関係を築ける人が傍にいて
そんな明日を信じられる
そういう穏やかな幸せがあればいいと
なんとなく思って見上げた夕焼けの空。
「また明日」
幼いころ、大好きだった本があった。
物語の主人公は武人で、用心棒を稼業にしていた。
主人公や同じ稼業の人々は、
いつ命を落とすかも分からない
そんな仕事であるから、
「また会おう」
などと再会を願う別れの言葉は言わない。
ただ一言、
「それじゃあ」
と別れるのだ。
幼い私は、なんと格好良いのだろう!と
彼らの生き様に、作法に、無垢に憧れた。
けれど今、再び読み返して思う。
なんと重たく、そして悲愴な
覚悟のこもった挨拶なのだろうと。
命に対する覚悟、或いは諦め。
悩んで、涙して、苦しんで、諦めて。
そんな葛藤や苦悩が、
その一節だけでありありと目に浮かぶようだった。
すごい物語を書く人だ。
だってこれは、読む度に景色の変わる本だ。
この物語に出会えた喜びと、
また会おうと、また明日続きを読もうと、
栞を挟んで眠れる幸福を噛み締めて。