「どこか、遠くへ行きたい」
ぽつりと零れ落ちた
小さな祈り
「どこへ行きたいの?」
そう、あなたに尋ねてみても
瞳は茫洋として
空を見つめるばかり
たぶん、あなたは
そこに行きたいのではなく、
そして
遠くへ行きたいのでもないんだね
ここから逃げだして
そして
ここから遠い遠い地でならば
安寧を得られると信じたいんだね
だけどだめだ、
その祈りは届かず
その願いは叶わないだろうさ
だって、あなたの敵は
あなたの心にこそあるのだから
「遠くへ行きたい」
月光の下、鈍く光を乱反射する
青く透明な記憶のかけら
その残響は虚しく響き
未来は未だ過去に囚われる
太陽を失った、私たちの世界
終わりは近く、祈りは絶えた
それでもまだ、
遠い夜明けを夢見て走る
あなたの松明のような光!
それは私たちの唯一の恒星だった
私は過去を夢みているのだろうか
それとも
未来を時の隙間から垣間見ているのか
蒼い蒼い月の海に
クリスタルでできた記憶の砂浜
私はひとり、波打ち際で
静かにその時を待っている
「クリスタル」
たとえば、
地に落ちて
泥まみれの羽で
冷たい雨に打たれ震える時でも
綺麗な
綺麗な
綺麗な景色だけみていたい
目を見開いた先
灰色の空ばかりでも
目を閉じた時瞼に映るのは
鮮やかな
鮮やかな
鮮やかな永久の花園
そういう夢がいいの
そういう夢がいいの
そういう息を吐くの
「永遠の花束」
日陰者って
わかってるんだよ。
言わなくたって
わかってる。
日向にあこがれて
でもみているだけの
日陰者。日陰者。
近づいたら
追い出されてしまうんだろな。
資格なんてないんだものね。
罪人だから。罪人だから。
見下ろした自分。
まっくろな自分。
顔を上げた先
白く輝く日向達。
いいないいな、
ここは寒いから
ねえ、仲間に入れてよ。
服を分けてよ。
拒まないでよ。
焼けてもいいよ。
焦げてもいいよ。
灰になっても
踊っていたかった。
夢を見ていた、
白い夢を。
生まれながらに
日陰者。日陰者。
白に焼かれた日陰者たち。
「日陰」
まだ少し寒い晴れの日、
二人で海沿いを歩く。
少し先を歩くあなたの後ろ姿。
振り返って、今日、風が強いねと笑う。
太陽がまだ低くて、
朝の光がちらちらと波間に煌めく。
些細な日常が急に愛おしくなって
口元が緩んだ。
なんだか照れくさくなって
両手で帽子のつばを引き下ろして顔を隠した。
あなたが、どうしたの、という
なんでもないよといったけど、
不思議そうに見つめるあなたに
ああどうしよう、と思った。
風でワンピースのスカートが
バタバタとはためく。
波の音と、海のにおい。
すこし寝癖のついたあなた。
こんな日が続けばいいと
思ったいつかの日。
「帽子かぶって」
いやいやという
ちいさいあなたに
ちいさな麦わら帽子をかぶせた
いやなのね
すぐにとってしまって
あわれな帽子は床にたたきつけられた
制服着なきゃ、幼稚園に行かれない
20分後に出ないと間に合わないのに
あれもこれもまだ済んでないのに
ああ、ブレザーも脱いでしまった
おねがい、おねがいだから
帽子をかぶって!