よしだ

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7/16/2025, 5:42:17 PM

私と同じ顔で、私と同じ性別で、
私と同じような年頃のひとが、

見知らぬ家で、見知らぬ人と微笑みあって、
見知らぬ赤子を抱いているのを見た

空に舞うほこりが
光を受けてきらきら輝く

まるで
スノードームの中の世界のような
そこが

過去にも未来にも、そして
平行世界のようにも見えた

西日の光で目が覚めた
狭いワンルームの小さなソファで

夢の中の彼女をおもう

私の胎に宿ることのない命をもつあのひと
私の隣には居ない人と暮らすあのひと

幸せそうだった

でも、うらやましいとはちっとも思わなかった

「真昼の夢」

7/15/2025, 4:56:05 PM

その時間がふたりだけのものだったら、
どんなによかっただろう

その秘密がふたりだけのものだったら、
きっとこうはならなかっただろう

その命がふたりだけのものだったら、
この手は汚れずに済んだはずだった

この世界にふたりきりで
きっとわたしたち、死んでゆきたかった

人波に流されるまま
時の大河にさらわれて

ふたり固く握ったはずの手のひらは
今ひとり、空を切るばかり

運命だと信じたかった
ふたりの愛のお葬式

「二人だけの。」

7/14/2025, 7:07:52 PM

幼い頃、大好きだった夏
病床で、窓越しに見た夏
十四歳、淡い恋をした夏
ふたり、氷菓を食べた夏

夏が嫌いだ

照りつける太陽も、
うるさいほどの蝉の声も、
生命の伊吹を感じさせる木々も、
むわりと体をつつむ湿気も、
青い青い空に浮かぶ入道雲も、
空に閃く稲光も、
雨が去ったあとの夕暮れも、

全部全部大嫌いだ

だってそれは昔、私の世界だったのだから!

置いてきた心たちと
変わってしまった全てがくるしい

あのころきらめいて見えた夏の日差しは
今私を痛めつける鋭い光になった

溢れんばかりの命の気配も、その輝きも
私にはもう外側から見つめることしか出来ない

頭も、瞳も、心も鋭く痛む、
だけど諦めきれない、
私の、わたしの、夏

「夏」

7/13/2025, 11:26:09 PM

あなたが真実を隠していることに
わたしは気づいている

そしてわたしはずっと、
見ないふりをし続けている

あなたがそれを隠した理由も、
その中身もわたしは知らない

あなたを愛しているとか、
知ることで傷つきたくないとか、
そんな理由じゃない

別にわたしは、
真実が欲しいわけじゃあないし、
反対に嘘が欲しいわけでもない

あなたに興味がないとか、
好意がないとか、
そんなことでもない

ただ単にわたしは、
あなたがわたしに、
あなた自身をそう見せたいのなら
それでもいい
そういう怠惰なのだ

「隠された真実」

7/12/2025, 4:09:20 PM

チリン、と澄んだ音のする風鈴は
想像するような硝子の風鈴ではなくて
向こう側なんて見えやしない鉄でできている

美しい春の音を奏でるうぐいすの姿は
梅によく映えるようなみどりではなくて
その幹に同化するような茶色をしている

虚構の陰にある真実は
けして
綺麗とは言えない姿をしているかもしれない

けれど、その虚構を支えたのは
陰から響くうつくしい音なのだ

「風鈴の音」

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