よしだ

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8/13/2025, 3:12:59 PM

言葉にならないものは
文字にもならぬのです。

けれどそれじゃあ味気がないから
それらそれらの輪郭の
小さいかけらと砂粒を
ぺっとここに置いておきます。

例えば
寝入る前の夢が染み出す心地

例えば
痛みと不快感のあいだの頭痛

例えば
抱きしめられた時の熱の波動

例えば
どうにもならない不安の痒さ

例えば
本当に美味しいものの美味さ

例えることは出来るかもしれませんね。

けれど本当に伝えたいことは
これじゃあ伝わらないのです。


「言葉にならないもの」

7/26/2025, 2:47:47 PM

私に勇気があれば、
とっくのとうに
あの世にいるはずなので
これはまだなんとか私が生きている
弱虫の証なのです

「涙の跡」

7/16/2025, 5:42:17 PM

私と同じ顔で、私と同じ性別で、
私と同じような年頃のひとが、

見知らぬ家で、見知らぬ人と微笑みあって、
見知らぬ赤子を抱いているのを見た

空に舞うほこりが
光を受けてきらきら輝く

まるで
スノードームの中の世界のような
そこが

過去にも未来にも、そして
平行世界のようにも見えた

西日の光で目が覚めた
狭いワンルームの小さなソファで

夢の中の彼女をおもう

私の胎に宿ることのない命をもつあのひと
私の隣には居ない人と暮らすあのひと

幸せそうだった

でも、うらやましいとはちっとも思わなかった

「真昼の夢」

7/15/2025, 4:56:05 PM

その時間がふたりだけのものだったら、
どんなによかっただろう

その秘密がふたりだけのものだったら、
きっとこうはならなかっただろう

その命がふたりだけのものだったら、
この手は汚れずに済んだはずだった

この世界にふたりきりで
きっとわたしたち、死んでゆきたかった

人波に流されるまま
時の大河にさらわれて

ふたり固く握ったはずの手のひらは
今ひとり、空を切るばかり

運命だと信じたかった
ふたりの愛のお葬式

「二人だけの。」

7/14/2025, 7:07:52 PM

幼い頃、大好きだった夏
病床で、窓越しに見た夏
十四歳、淡い恋をした夏
ふたり、氷菓を食べた夏

夏が嫌いだ

照りつける太陽も、
うるさいほどの蝉の声も、
生命の伊吹を感じさせる木々も、
むわりと体をつつむ湿気も、
青い青い空に浮かぶ入道雲も、
空に閃く稲光も、
雨が去ったあとの夕暮れも、

全部全部大嫌いだ

だってそれは昔、私の世界だったのだから!

置いてきた心たちと
変わってしまった全てがくるしい

あのころきらめいて見えた夏の日差しは
今私を痛めつける鋭い光になった

溢れんばかりの命の気配も、その輝きも
私にはもう外側から見つめることしか出来ない

頭も、瞳も、心も鋭く痛む、
だけど諦めきれない、
私の、わたしの、わたしたちの、夏

「夏」

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