よしだ

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8/20/2024, 1:12:20 PM

人間へ

さよならを言う前に、ひとつだけ。
猫にほかの動物を見るのをやめた方がいい。
猫は猫だから。

ツチノコでもアザラシでも
鳥でもビニール袋でもない。
犬なんて言語道断。

猫だ。猫なんだよ。

そういうわけでさよならだ。
じゃあな。

猫より

P.S.家出の邪魔をするのはもっとやめた方がいい!



「さよならを言う前に」

5/22/2024, 3:15:38 PM

夕暮れ時。
鴉の声と、子どもたちのざわめき。

またね、またねと手を振って、
それぞれが家路につく。

「またね」と再会を信じ、望む言葉。
いいな、素敵だな、と思う。

“また明日ね”と約束できる幸せ。

“また会おうね”と望まれる幸せ。

子どもでも
大人でも
どんな性別でも
どんな生活をしていても
どんな生い立ちをしていても

そんな関係を築ける人が傍にいて
そんな明日を信じられる

そういう穏やかな幸せがあればいいと
なんとなく思って見上げた夕焼けの空。


「また明日」


幼いころ、大好きだった本があった。
物語の主人公は武人で、用心棒を稼業にしていた。

主人公や同じ稼業の人々は、
いつ命を落とすかも分からない
そんな仕事であるから、

「また会おう」

などと再会を願う別れの言葉は言わない。
ただ一言、

「それじゃあ」

と別れるのだ。

幼い私は、なんと格好良いのだろう!と
彼らの生き様に、作法に、無垢に憧れた。

けれど今、再び読み返して思う。
なんと重たく、そして悲愴な
覚悟のこもった挨拶なのだろうと。

命に対する覚悟、或いは諦め。
悩んで、涙して、苦しんで、諦めて。
そんな葛藤や苦悩が、
その一節だけでありありと目に浮かぶようだった。

すごい物語を書く人だ。
だってこれは、読む度に景色の変わる本だ。
この物語に出会えた喜びと、
また会おうと、また明日続きを読もうと、
栞を挟んで眠れる幸福を噛み締めて。

5/20/2024, 1:18:22 PM

きっと、
理想のきみを見つけてしまったら
手に入れたいという飢餓感に
強く求めずにはいられないだろう

きっと、
理想のあなたを見てしまったら
あなたのようになりたかったと
嫉妬の炎に身を焦がすだろう

きっと、
理想の子を手元に置いてしまったら
その未来に思いを馳せて
支配欲を抑えることなどできないだろう

理想
理想
理想

その存在の強度に
時に目を焼き、
時に心を支配する

しかし同時にそれらは
自らの指針になりえるもの

面白い
面白い

いつかおのれの
理想の化身に会ってみたいものだ


「理想のあなた」

5/19/2024, 2:43:43 PM

最近、この星、この国では
とんでもないことが起きている
人々は苦しみの声を上げ、
その引き裂かれるような苦痛に倒れる人も多い
 
 ───そう、季節との別れだ。

ようやく麗しき春に逢えたと思えば
彼女はあっという間に儚くなってしまって
我こそが王だとでも言いたげな
彼の夏の苛烈さに襲われる

かと思えば
行方をくらましたはずの冬の君が
ひょこりと顔を出して悪戯に笑うのだ

秋は夏と冬の獰猛な牙に弱り果てて伏せりがちで、
もう駄目かと諦めようとすれば突然
起き上がってにこにこと散歩に出掛ける

この頃四季はどうにも
慌ただしい日々を送っているらしい

サッと現れては
サッと消え

生まれたと思えば
死んでゆく

もう少しここにいてくれ、と
頼む間どころか、
その願いを心に宿す暇もなく
彼らはすぅと去ってしまう

心地よく戯れていたのに、
彼女をおしのけて現れる
そして去ってしまった彼女が
当たり前のものではない
美しいひとなのだと言外に示す

もうどこかに行ってくれと願うのに
しつこくまとわりついて困らせて
そろそろ慣れて心地良さを感じた頃に
ふっ、と突然姿を消してみたりする

もう少し落ち着いて、そこにいてほしいと
まだ君と語らっていたいと願うのに
全くつれないひとたちである

 
「突然の別れ」

5/18/2024, 2:40:22 PM

 私の祖父は、昔はもうとんでもない大金持ちのボンボンで、婚約者がいた私の祖母を横から掠め取ったらしい。その祖母も元々はそれなりのおうちのお嬢さんだったのだけれど、父の事業が部下の裏切りによって潰れてしまって進学を諦めたのだという。

 どういう経緯で略奪を成功させたのかは知らないけれど、聞くにあんまり祖母は幸せではなかったみたいだ。結婚後も熱心に絵画などを送り付けてくるようなファン(祖父が言うにはフアン)がいる程度には美人で、婚約者だっていて、有能な人だったのにどうしてまぁあんな祖父に嫁いだのかしらと、母からその話を聞く度に思って言うと、

「でもそうじゃなければ私たち、生まれてないわよ」

などという。それはそうだけれど、そういうことではないというか。

 祖父の仕事は当時としては珍しく、国外への転勤が多いものだった為に祖母はブラジルで式を挙げた。その式の写真を見せてもらったことがあるが、白黒写真に写る豪華なウエディングドレスを身につけた祖母と、その隣でタキシードを着た祖父が教会から出てくる姿は、とても美しくみえた。見えただけだけれど。

 苦労の絶えなかった祖母だったが、どうやら祖父はその態度に反して祖母のことを心から愛していたようだった。祖母の葬儀で、私は初めて祖父の涙を見た。それならばちゃんと大切にしてあげれば良かったのに、と思わなくもなかったけれど、時代もあったし祖父にはあれが限界だったのだろう。


 さて、今度は母の話だ。母は大学で知り合った父に猛烈に求婚されて結婚したらしい。すごくうるさかったともらしていた。二人はやっぱり教会で式を挙げたのだけれども、この式には結構なエピソードがある。

 当時あまり式にお金を使いたくなかった二人は、卒業した大学にある教会で式を挙げた。これは全然全く問題無かったのだが(本物のキリスト教式で、美しくて安かったらしい)、この式の際に着る衣装で父がやらかしたのだ。

 父はどうも、ドレスを買うのは高いから嫌だと言って、父の母(要するに母にとっての姑)が式を挙げた際のドレスを借りると言ったのに、自分には十数万円の新品タキシードを買ったらしい。

 この時点で相当アレだが、さらに姑に借りたドレスは返却を求められたそうだ。あとサイズがあんまりな細さだったとか。母は当時40kg前半代でようやく入ったというのだから相当だ。そして、父は離婚したあとも多分何が悪いのか分かっていなかった。

 二組の夫婦にはまだまだ呆れるほどのエピソードがあるのだが、それもまあ、きっと恋物語のひとつなのだろう。凡人の結婚話でも掘ればわんさか物語は出てくるもんだ。そんなだから、恋はあんなにも信仰されているのかもしれないと、我が一族の女の男運の無さに恐れを抱きつつ思うのであった。


「恋物語」

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