よしだ

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5/17/2024, 3:19:13 PM

10年間の真夜中


いたくて、さむくて
こわくて、つらかった

苦しみから逃れたくて
死んでしまいたかった

死へ向かう為の苦しみに
耐える勇気どころか、
その苦痛を想像すらできないのに
今わたしを苛む辛苦から逃れようと
死にたい死にたいとみっともなくわめく

誰か助けてくれ
誰でもいい、
この苦しみから救ってくれ
などと世迷いごとが溢れてやまない

体が動かなくて
胃の腑も足先も冷えてひえて
ろくに動けやしないのに
口からこぼれる呻き声と
涙が濡らした顔が気持ち悪い

つらいなあ
こわいなあ
もう、やめたいなあ

恩知らずがうたう

そしてあなたは
そんなわたしに
今だけだと
いつか苦しみは去る時が来るのだと
わたしを暖めながらいうのだ
今に押し潰されそうなわたしの嘆きに
未来への希望を指し示すのだ

そうするしかできないと
少し悲しそうに

やさしくて苦労ばかりのあなた
あなたにすがるばかりのわたし
わたしがわたしでなければ
あなたはもっと幸せになれたのか
否定されなければ傷つくくせに

嗚呼、
わたしは、本当は、
あなたを助けられる、
あなたを幸せにできるひとに
生まれてきたかった


「真夜中」

5/16/2024, 2:22:03 PM

   愛があれば
  愛を注がれたことがあれば
 愛を本当の意味で知っていれば
愛を分け与え、注ぐことはできるだろう

愛を持つものは、
  きっと持たぬものが出来ぬことを
     いとも簡単に行うことができる

 けれど

     愛は万能ではなく

 また、

愛を持たぬからこそできることもあるのだろう

 どちらもが尊く
    どちらもが醜い顔を持っている

    まるで背中合わせみたいに

「愛があれば何でもできる?」

5/15/2024, 12:29:03 PM



 頭が嘴にハンマーでも付けた啄木鳥につつかれてるみてェに痛むんだ。


>>>


 多分、極限まで行ってしまえば後悔さえ贅沢になるのだろうと思う。未来で過ちを犯さないために後悔なんてのがあるのだとすれば、ひっくり返せば後悔するのは未来があるということなんだろうと。

 ただまあ、それで後悔の味が良くなるかってッたらんなこたァないよなァ。あれは、胸を掻きむしりたくなるほどに苦くて、面の皮剥がしたくなるくらい顔が熱くて、臓物全部投げ捨てたくなるくらい痛くて、頭がぐわんぐわん回ってるみたいに吐き気がする。思い出す度にそこらの川にでも飛び込んでやろうかなんて思う。

 だけれども、自分を火にくべて丸焦げにしているだけマシだ、とも思う。他人や世の中に筋の通らん怒りを向けるよかまだ心が生きている。ような気がする。

 よく物語で出てくるような、勢い余って世界滅亡を目論むような悪役はきっととんでもなく不幸で、とんでもなく孤独だったんだろう。その心は血だらけで、そうするしかもう生きていかれなかったんじゃなかろうか。

 ……後悔、後悔ねェ。後悔するだけ無駄だとか、後悔したって過去は変わらないだとか、世間じゃよく聞く言葉だ。真理ではあるのだろうが、それだけ人間が「後悔」をして苦しんだからこそ生まれた言葉でもあるんだろう。

 そして、ま、そんだけ後悔する奴がいるんだ。ならばそれは人間として持つ機能のひとつで、いつかどこかの段階で生存に必要だったから備わった技能なのかもしれない。

 そういうことを布団にひっくり返ってゴタゴタ考えているんだから、人間とはまこと奇っ怪な生き物なんだろな。

 ──ああ!そうとも!俺ァ後悔してるさ!呑まなきゃ良かったってな!!


「後悔」

5/9/2024, 4:46:15 PM

 斃れ、積み重なった亡骸の山々の前に跪いて、真摯に、真剣に「死者のゆくさきに幸福があるように」と祈る人を見たことがあった。

 空は曇り、煙と砂塵にまみれ、まるで色彩が無くなったかのような世界で。その人のまわりだけは光っているように見えたことを今でも覚えている。

 あの頃、戦乱の中で人々は疲弊しきって、己のことだけでも手一杯だった。混迷の中でわたし達に余裕なぞなく、傷つけ合い奪い合い、そうして生きていた。そうするほか、道はないのだと。

 神に祈ったところで、救いなどなく。絶望のまま息絶えた修道女、母の腕の中で道連れにされた赤子、錯乱して自らに火をつけ苦しみのうちに死んだ老人、親を失い、餓死した子ども。ああそうだ、そこは此岸の地獄だったとも。

 既に一人ひとり丁寧に埋葬することなど不可能だった。しかし死体はいずれ腐り病を振りまく。だから人々は、わたし達は、浅く掘った穴に積み上げて名ばかりの「火葬」をしていた。誰であるかなんて分からない。ただ炎の中で縮んで丸く小さくなってゆく「死体」という薪を無感動に見ていた。

 そこに、その人は現れたのだ。わたし達と同じようにガリガリに痩せてボロを着ているというのに、背筋はぴんと天に伸びて、この地獄の中で未だ真っ当な精神を保っていた。ひと目でわかる高潔な魂は、煌々と輝く太陽のように既に地獄に染ったわたし達の目を焼いた。

 そしてその人は、薪ではなく人であると、彼らのゆくさきに幸あれと、彼らのために祈っていた。

 眩しかった。そのあまりにも強い光はわたし達の幽鬼のような昏い目を、麻痺した心を、曇った魂を焼いた。あの光は、あの時あの場所あの地獄では、直視するには眩しすぎて、痛くて、苦しかった。

 結局あの人はその命脈を絶たれることとなった。あの光に耐えきれずに飛び出してきたあの場所では普通の、そして今ここでは狂人と呼ばれるような人間にあっさりと殺されてしまった。わたしは、わたし達はそれをただ見ているだけだった。

 長い時間が経って、混迷の時は過ぎ去り、忘れ去られようとしている。ああ、それでも忘れられぬものはあるものだ。きっと、わたしは忘れない。忘れられない。凍った心が雪解けの時を迎えた時に覚えた痛み、後悔の味と共に。かの光を、彼岸の地獄へゆく時まで。いや、その後でさえ忘れないだろう。そう、いつまでも。


「忘れられない、いつまでも。」

5/7/2024, 10:11:14 PM

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冬の夜の、冷たくも甘い透明な香り
夏の日に祖父と見た夜闇の蛍

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テレビで見たアニメの勇敢に戦うお姫様
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海の向こう、暗雲に閃く遠雷

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私を変えた、きらめく過去の思い出たち


「初恋の日」

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