夕暮れ時。
鴉の声と、子どもたちのざわめき。
またね、またねと手を振って、
それぞれが家路につく。
「またね」と再会を信じ、望む言葉。
いいな、素敵だな、と思う。
“また明日ね”と約束できる幸せ。
“また会おうね”と望まれる幸せ。
子どもでも
大人でも
どんな性別でも
どんな生活をしていても
どんな生い立ちをしていても
そんな関係を築ける人が傍にいて
そんな明日を信じられる
そういう穏やかな幸せがあればいいと
なんとなく思って見上げた夕焼けの空。
「また明日」
幼いころ、大好きだった本があった。
物語の主人公は武人で、用心棒を稼業にしていた。
主人公や同じ稼業の人々は、
いつ命を落とすかも分からない
そんな仕事であるから、
「また会おう」
などと再会を願う別れの言葉は言わない。
ただ一言、
「それじゃあ」
と別れるのだ。
幼い私は、なんと格好良いのだろう!と
彼らの生き様に、作法に、無垢に憧れた。
けれど今、再び読み返して思う。
なんと重たく、そして悲愴な
覚悟のこもった挨拶なのだろうと。
命に対する覚悟、或いは諦め。
悩んで、涙して、苦しんで、諦めて。
そんな葛藤や苦悩が、
その一節だけでありありと目に浮かぶようだった。
すごい物語を書く人だ。
だってこれは、読む度に景色の変わる本だ。
この物語に出会えた喜びと、
また会おうと、また明日続きを読もうと、
栞を挟んで眠れる幸福を噛み締めて。
5/22/2024, 3:15:38 PM