maria

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6/26/2023, 11:22:38 AM

「君と最後に会った日」

きみとさいごにあったひ

それはうつむいて

背中を丸めていたばかりの僕が

前を向いて、

背筋を伸ばして歩いていこうと決めた日


迷子になって途方に暮れていた僕の

ちいさなちいさなひかりを

この僕の命を 存在を

何にも替えられない価値あるものだと

君が教えてくれた日。

「君と最後に会った日」

それは僕が新しくうまれた日

6/25/2023, 11:33:58 AM

「繊細な花」


思ってもみなかった。

こんなにもすぐに
花びらが落ちてしまうなんて。

私はただ、ひとの手の入らぬ
有象無象の輩の迫る危険な森から 
誰も襲ってこれない安全な人間の元に 
君を救って 連れてきただけなのに。

きみはただ ひとの手の及ばぬ
精霊妖精たちの棲む安全な森から
誰も護ってくれない危険なにんげんの元に
私に攫って 連れてこられただけだった。


神力の及ばぬ濁った下界の地で
震えながら うつくしいきみは
花弁をおとしてゆき
最後の力を振り絞って
森の精霊を喚びながら
私の前で息絶える

ひとつの命を捧げられて
そうしてようやく
人は己の愚かさを知る。
そうしてようやく
人は命の悲しさを知る。


ひとつの命に
ひとつのまなび

なんと罪深きことか 
なんと傲慢なことか

にんげんよ



         「繊細な花」

6/24/2023, 10:36:03 AM

「1年後」


驚いた。
そして ゾッとした。


1年後の未来から 
もうタイムカプセルを開けよ と
報せが届いたのかと。

この小さな画面に視線を奪われ
集中力の全てを注いでいた間に
まさか私独りが時間に取り残されて
いつの間にやら ひっそりと
1年も経ってしまったのか。

2023年5月8日に
私は1年後について書くように言われていた。
私のみならず、おそらく
多くの人々が。


本日が 
2023年6月24日であることを示すのは
私の部屋だけであろうか。
もしや既に 外界は
2024年なのだろうか、と。

何が正しいのか
わからなくなっている。



二ヶ月開けずして、同じお題を出されても
「驚いた」感情だけで
これほどつらつらと文章が書けるのは
『書く習慣』の賜であろうが
今日ばかりは 少しばかり 
皮肉を言わせてほしかったりもする。



しかしながら我が部屋だけが
時間に取り残されていたのなら
すまなかった。





      5月8日と同じお題「1年後」

6/23/2023, 11:43:03 AM

「子供の頃は」


子供の頃は

わからないことは
わからないままで良い

大人になると

わからないことは
わかったふりをすれば良い。

但し 自分自身のくちのなかに
おそらくは鉄の味の
生暖かい血を感じることだろう。
口の端から零れぬように
そいつを飲み込んで
滑稽に笑ってみせることだろう。

あるいは自ら切りつけた
脾腹の刺し傷から
他のものからは見えぬよう
じっとりとどす黒い血が
拡がってゆくのを感じるだろう。
焦点の合わない眼差しを
宙に泳がせながら
視界の靄が
拡がってゆくのを感じるだろう。

まことに遺憾ながら
まことに残念ながら
それが大人になるということであるか。

それが大人になるということならば

子供の頃は なんとさいわいであるか。


          「子供の頃は」


6/22/2023, 12:31:06 PM

「日常」


「ただいま」と言って
マンションの自室のドアを開けると
「おかえり」の声があちこちからかかる。

すでにエルフとドワーフが
干し肉を肴に酒盛りをし

精霊たちがクスクスと笑い合い
天井から下げた観葉植物で
ブランコをしている。

待ちくたびれた森の動物たちが
身を寄せ合って部屋の隅で
ウトウトと微睡んでいる。

二頭の子どものドラゴンがソファーの背で
取っ組み合いのじゃれ合いをし
12階の窓の外からは母ドラゴンが
行き過ぎぬよう見守っている。

私はソファーのクッションの上で
身体を丸めたピンクと紫の
しましま模様のチェシャ猫の耳を撫で
ゴロゴロという振動を楽しみながら
ソファーにドスンと腰掛け
今日のお題をみる。


「日常………」

私の呟きに ドワーフが
「日常って、おまえさん」

肩を震わせ笑いをこらえている。

エルフが驚いたように盃をおき
「まさか、書くつもり?」と。


「そりゃ、書かなきゃねえ」

と呟いて
私はいつもより素早く指を滑らせ
投稿ボタンを押した。


「日常」

誰もいない部屋に
「ただいま」と言って帰る。
部屋の明かりをつけて、カーテンを閉める。
今夜もひとり 静かな月夜
それが私の日常





私はスマホを暗転させると
ドワーフ達の酒盛りに加わった。

「どうだった?今日の外界は」
葡萄酒を注ぎながらエルフが訊ねる。
私は軽く盃を合わせ飲み干しながら
「ふつー。
なんとか上手くやってるよ」
と答えニヤリと笑う。
「よく化けてるよ、おまえさん」
ドワーフが片目をつぶってみせる。

空に浮かんだ三日月が
参加したそうにこちらをみている。

今夜の宴会も夜通し続くだろう。
話は尽きず、そのうち誰かが踊りだす。
笑い転げて みんなで分かち合う
かけがえのない仲間たち。





さて本当の日常はどちらでしょう。



            「日常」



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