「子供の頃は」
子供の頃は
わからないことは
わからないままで良い
大人になると
わからないことは
わかったふりをすれば良い。
但し 自分自身のくちのなかに
おそらくは鉄の味の
生暖かい血を感じることだろう。
口の端から零れぬように
そいつを飲み込んで
滑稽に笑ってみせることだろう。
あるいは自ら切りつけた
脾腹の刺し傷から
他のものからは見えぬよう
じっとりとどす黒い血が
拡がってゆくのを感じるだろう。
焦点の合わない眼差しを
宙に泳がせながら
視界の靄が
拡がってゆくのを感じるだろう。
まことに遺憾ながら
まことに残念ながら
それが大人になるということであるか。
それが大人になるということならば
子供の頃は なんとさいわいであるか。
「子供の頃は」
6/23/2023, 11:43:03 AM