maria

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「日常」


「ただいま」と言って
マンションの自室のドアを開けると
「おかえり」の声があちこちからかかる。

すでにエルフとドワーフが
干し肉を肴に酒盛りをし

精霊たちがクスクスと笑い合い
天井から下げた観葉植物で
ブランコをしている。

待ちくたびれた森の動物たちが
身を寄せ合って部屋の隅で
ウトウトと微睡んでいる。

二頭の子どものドラゴンがソファーの背で
取っ組み合いのじゃれ合いをし
12階の窓の外からは母ドラゴンが
行き過ぎぬよう見守っている。

私はソファーのクッションの上で
身体を丸めたピンクと紫の
しましま模様のチェシャ猫の耳を撫で
ゴロゴロという振動を楽しみながら
ソファーにドスンと腰掛け
今日のお題をみる。


「日常………」

私の呟きに ドワーフが
「日常って、おまえさん」

肩を震わせ笑いをこらえている。

エルフが驚いたように盃をおき
「まさか、書くつもり?」と。


「そりゃ、書かなきゃねえ」

と呟いて
私はいつもより素早く指を滑らせ
投稿ボタンを押した。


「日常」

誰もいない部屋に
「ただいま」と言って帰る。
部屋の明かりをつけて、カーテンを閉める。
今夜もひとり 静かな月夜
それが私の日常





私はスマホを暗転させると
ドワーフ達の酒盛りに加わった。

「どうだった?今日の外界は」
葡萄酒を注ぎながらエルフが訊ねる。
私は軽く盃を合わせ飲み干しながら
「ふつー。
なんとか上手くやってるよ」
と答えニヤリと笑う。
「よく化けてるよ、おまえさん」
ドワーフが片目をつぶってみせる。

空に浮かんだ三日月が
参加したそうにこちらをみている。

今夜の宴会も夜通し続くだろう。
話は尽きず、そのうち誰かが踊りだす。
笑い転げて みんなで分かち合う
かけがえのない仲間たち。





さて本当の日常はどちらでしょう。



            「日常」



6/22/2023, 12:31:06 PM