maria

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「繊細な花」


思ってもみなかった。

こんなにもすぐに
花びらが落ちてしまうなんて。

私はただ、ひとの手の入らぬ
有象無象の輩の迫る危険な森から 
誰も襲ってこれない安全な人間の元に 
君を救って 連れてきただけなのに。

きみはただ ひとの手の及ばぬ
精霊妖精たちの棲む安全な森から
誰も護ってくれない危険なにんげんの元に
私に攫って 連れてこられただけだった。


神力の及ばぬ濁った下界の地で
震えながら うつくしいきみは
花弁をおとしてゆき
最後の力を振り絞って
森の精霊を喚びながら
私の前で息絶える

ひとつの命を捧げられて
そうしてようやく
人は己の愚かさを知る。
そうしてようやく
人は命の悲しさを知る。


ひとつの命に
ひとつのまなび

なんと罪深きことか 
なんと傲慢なことか

にんげんよ



         「繊細な花」

6/25/2023, 11:33:58 AM