maria

Open App
5/12/2023, 11:58:12 AM

まだ時計を持たない頃
一日は驚きに満ちていて
時間はゆっくり流れていった。

嬉しいことや 初めて見るもの
哀しいことや 辛いこと
「そうである」と言い切れるものや
「そうとばかりも言えない」と曖昧なもの
それらを線引して引き出しにしまってゆく

12歳の頃、傷ついて
私は心で繭を作った。
繭の中で哀しみを
引き出しにしまい続けた。

18歳の頃、
自分と自分以外の、
理解の及ばない境界線を知った。
恋に涙しながら、
苦しみを引き出しにしまい続けた。

20代には20代の
30代には30代の
40代、50代、60代、70代
80代になってもきっと

「そうであるもの」と
「そうとばかりも言えないもの」を
線引して、悩みながらも仕分けして、
もがきながら生きてゆくのだろう。

だとしたら自分はきっと

このまま ずっと ずうっと 
子供のまんま


         「子供のままで」

5/11/2023, 1:03:21 PM

19時を過ぎた。
会社を出て駅までの雑踏の中を
人を避けつつ歩きながら
いつものアプリを開く。

今日のお題は……と。

「愛を叫ぶ。」

あいを?さけぶー?

私は思わず天を仰いだ。
こりゃあ今日のはダメなやつだ。

なにしろ愛だのと言われても
彼氏とは先月別れたとこだし、
そもそもこの都会のどこに叫べるような場所がある?
出題者は何を考えてるんだろう。

そんなことより週末の菅田将暉君の映画の予約のほうがよほど大事だ。

「銀河鉄道の父〜♪」予約完了っと。

私はスマホをバッグにしまって
あるき始めた。
前方が何やら騒がしい。
このあたりは先日、白昼堂々強盗事件があった辺りだ。
私は嫌な予感がして足を止めた。
前方の女性達が悲鳴を上げながら
こちらへ向かって走ってくる!

また犯罪だ!どうしよう!!
逃げようと思うのに間に合わない。
みぎに? それともひだり?

オロオロしている間に
犯人らしき男の姿が見えた。
黒いサングラスをかけ、全身黒い服だ。
どうして犯罪者っていうのは黒を着たがるのだろう。
これでは証言もなにも
参考になるわけがない。

男がみるみる近づいて、
勢い余って私にぶつかってきた。

刺される!!!!
私は咄嗟に目をつぶった。


「ごめん、だいじょうぶ?」

え?恐る恐る目を開けると
そこには心配そうに
サングラスを持ち上げて
私の腕をとる


菅田将暉?!!!!


きゃあああああ!!!
すだくぅーーーーん!!
すきーーーーー!!!!!

私は思わず菅田将暉くんに抱きついたっ!


あ、あったわ。


      愛を叫ぶシチュ。

5/10/2023, 12:59:26 PM

祖母の畑の片隅の
ナスやトマトやキュウリの向こう
小さなキャベツの葉の裏で
モンシロチョウが目を覚ます

右も左もみどり色
お空もベッドもみどり色
じぶんのからだもみどりいろ
たべて夢見て 夢見てたべて
食べた分だけ 夢ふくらんだ

ある日突然 蛹になって
ながい ながあい 夢を見る
肢があるよな 翅があるよな
くすぐったいよな
怖いよな

春に目覚めたモンシロチョウ
初めて目にしたその光景
赤や黄色の花々に
キラキラ光る川の水
オレンジ色の蝶の群れ
世界が色で溢れてる

だけど私は モンシロチョウ

誰にも染まず 染められず

凛と前向く モンシロチョウ

おおきくひとつ 深呼吸

モンシロチョウは とびたった

世界をそのめでみるために

新たな色となるために

   いつかあなたに 会うために



       「モンシロチョウ」

5/9/2023, 9:56:42 PM

あなたとの距離はまだよくわからなくて
お互いに敬語のLINEの会話

「こんばんは。今お時間いいですか?」

   「こんばんは。どうしました?」

「今度の飲み会、行きますか?」

   「いいえ、別の予定があって」

「そうなんですか。」

   「あなたは?」

「じゃあ、やめようかな」

   「え?どうしてですか?」

「あなたが来ないのなら意味がない」

   「そんなこと言わずに。                  
    行ったら楽しいと思いますよ?」

「いいえ、やめときます」 

   「気を遣わなくていいのに。」

「来週の土曜、予定ありますか?」

   「午前中の仕事以外は特に。」

「では食事でもいかがですか?」


あなたとの会話の履歴
まるで指と指を絡ませるような濃密で
私を甘やかしてくれる文字たち
言葉を交わすたび自覚してゆく
あなたの存在が私の心の中心になってゆく

私を認めてくれたこととか
私を尊重してくれたこととか
私を求めてくれたこととか
私のことを思う時間をくれたこととか

    それが とてつもなく嬉しくて

そんなありがたいひとつひとつに
どれだけ力をもらえたことか。

    どれほどあなたに恋したことか

あなたが私に与えてくれたものは
たいせつで たいせつな たからもの。


いつまでも消せないLINEの会話履歴
あなたとは最後まで敬語で話す間柄
会う理由の見つからない今となっても
話しかける理由のない関係になっても


世界のどこにいたって
あなたの幸せを祈っている。

だって私は まだこんなにも

     忘れられない、いつまでも。



お題「忘れられない、いつまでも」

5/8/2023, 2:02:01 PM

息を吸って 2秒後の未来
息を吐いて 4秒後の未来

息を吸って 6秒後の未来
息を吐いて 8秒後の未来

呼吸をするたび 私は未来をつくる
呼吸をするたび 私は未来をいきる

今日聴いたメロディーが
どれほど心を慰めてくれたことか

花弁に残る朝露の虹が
どれほど私を虜にしたか

塀の上の痩せた野良猫の姿が
どれほど哀しかったことか

今夜の月がどれほど私に
雄弁に物語を聞かせたか


私だけにしか見えぬ
ビロードの宝石箱の中にある
小さな丸い真珠のような
脆くて壊れやすい、
ふぃとなくなってしまいそうな
この危うい想いを
そっと手にとって掌に包む

一年後、もしくは五年後
十年後、それとも百年後

私の身体が灰になり塵となって
この世界を形作るための
何物でもなくなったとき、
今日のこの日の 私の見た景色を
あなたがみてくれたなら
一年後だろうが、明日だろうが
それは同じ価値がある。

息を吸って 2秒後の未来
息を吐くと ほら もう4秒後の未来

あなたにも みてほしい
いま作られてゆく この未来


         お題「一年後」

Next