私が幼稚園児の頃、名前も知らない大道芸人が
影絵を披露してくれた。
いつも違う動物で、いつも違う種類のお話で
彼は私たちを楽しませてくれた。
私もいつかそんな風に人を楽しませる人になりたくて
こっそりと大道芸人の男性に聞いてみた。
「どうしたら、あの動物は生まれるの?」
その男性は答えた。
「あの子たちはね、僕たちの手の中に住んでいるんだ。
だから今すぐには君のお友達にはならないかもしれない。
でもね、一つだけ方法を教えてあげよう。
いい子にしてたらとかそんな簡単なことではなく、
誰か寂しそうにしてる人を見つけたら
自分がお日様の影になるようにこの子を手で作って
ぴょこんとその人の目の前で、話しかけてごらん。
そしたら、君の手の中に君だけのお友達が沢山できるよ。
大丈夫、君ならできる。
僕の手の中に住むお友達と仲良くしてくれたから。
その優しい気持ちがお友達とつなげてくれるんだよ」
そう言ってその人は私に
手で作るウサギの影絵を教えてくれた。
そしてその影絵は私の好きな男性の救いになって、
彼は私の今の旦那さんになった。
そして、年月は過ぎて私の幼い娘のお友達になった
いつだって人生には「スタート」と言える場面がある
何とかデビューをしたとき、人は緊張と共に心が躍る
期待より不安の方が大きいのが、子供の頃の私だった
でも、大人になってから何とかデビューを決めるのは
自分自身なんだ。
だから、今となっては何でも挑戦するようになった。
不安もあるけど、
「輝きたい」という思いでスタートを切る。
試用期間の始まりは新しい物語の始まり。
だから、怖がらずに進もう。
たとえ、もしそれが念願の交際の始まりなら、
温めていこう、恋人との絆を。
誰かが私の名前を呼んでいる。
でも、周りは見渡す限り背の高い木が並ぶ森。
人も動物もいなくて静寂の中に風の音が耳に当たる。
その空気が私の名前を呼ぶ声を運んでくる。
ひとりぼっちで寂しいから
いきなり何かに襲われそうで怖いから
早く声の主に会いたい。
そう思って声がする方に向かって走るけど
進んでいるはずなのに周りは同じ景色。
近づいているはずなのに声は遠のく。
「ウサギ、君はもう一人じゃないからね」
そう言ってくれてるのに
私は焦るし、涙が溢れて止まらない。
一人じゃないのに一人だと思わせるこの世界が嫌いだ
早く、会いたい。
涙で滲んだ視界の遠くの方に、
おぼろげに人の形をとらえた。
「あの!あなたは誰ですか?」
必死に叫ぶ私に向かってその人は言う。
「ウサギの求めている絆の相手だよ」
その一言を聞いた瞬間、目の前にその人がいて
私は叫ぶ。
「ごめんなさい!
あなたの優しさに気づけなかったから」
号泣する私にその人は優しく抱きしめてくれた。
遠くの方から私を呼んでいた声の主は
私の大切な見捨ててはならない人でした。
社会の厳しさに対して無知だった子供の頃は、
毎日、目の前のことをやり遂げるのに必死だった。
「成績」という自分の基準を勝手に決めつけるものを
少しでも優良なものにしたいって強く思っていた。
その頃の未来図は(置き換えれば現在だけど)、
自分の好きなものを仕事にしてキラキラ輝いて働ける
そんなガチのキャリアウーマンの私がそこにはいた。
だけど、現実はうまくいかない。
普通の人生のレールから外れるし、
自分の趣味を極めようと努力はしてるけど
仕事にはならない。
未来図は描いてもその通りにはならないことが常。
だけど、今の私が未来図を描くなら
自分の好きなものを誰かに認められて、
一人でも多くの人に「刺さる」ものを世に出せる。
そんな自分を夢見る。
計り知れない巨大な雲だけど、
紫外線のような不安を降り注ぐ悪魔から守る、
誰かの心をフォローする雨になりたい。
今までの経験が私の未来図を変えたのかもしれない。
心を壊して独りぼっちになった僕は
薄暗い部屋の中で引きこもっていた。
ブルーライトが目を刺激しているのは分かっていても
画面の向こう側にいる名前の知らないバンドを
ぼーっと見続けることをやめられなかった。
楽器なんて弾いたことないし、
音痴だから歌にも自信ないから、
バンドを組んだことなんてない。
それでも彼らが見ているライブの中の風景は
想像できていると思う。
カッコいいこの日のための衣装を着て
長さはわからないけど、
苦しかった下積み時代を乗り越えて、
懸命に歌い、演奏している。
ライブに来てくれたお客さんは皆、活気付いている。
きっと彼らの目の前の風景は、
何にも変え難い宝物だろう。
でも、心のどこかで想像していたかもしれない、
今よりも小さな漠然とした夢の風景を。
僕は彼らが見ている風景をこの眼で知りたくて、
ライブに行きたいと思った。
金欠というのもあるけど、
それよりも今はまず外の世界へでなければならない。
だからはじめの一歩として
孤立者のための就労支援事業所を探そう。
夢は急がなくても逃げない。
見たい風景は、自分の目でしっかりと見届けよう。
そんなことをこのバンドは曲で教えている気がした。