秋の夜風がふくと名の知らないあの人を思い出す
ススキの穂が揺れるさまを
「神風が吹いている」
と言ったあの方の思いにふけている閑散とした顔
「神風が吹くのは危難を防ぐためなんだ。
君も気をつけたほうがいい。
危難は出来事ではないかもしれない。
心の具合を危惧していることもある。
今の当たり前が大切な幸せだったと後悔する前に
周りの人や自分を大切にするべきだ」
あの方はきっと誰かを失くしたのかもしれない
きっとある晩にススキの穂が揺れたとき
その大切な人はあの方に何かを言ったのだろう
あの方が思いにふけるほど重みのある一言を
そしてその後あの方の前から去ってしまった
あるいは心が離れてしまった
だからこそ私に「神風」というものの大切さを教えた
つらい時、真っ先に脳裏に浮かんだのは
楽しかった小さい頃の思い出だった。
あの頃の無垢な私は「悩み」という言葉を
知らなかった。
頭の中にモヤっとしたものがあっても
それが困ったことだとは思えなくて
なかったことにしてまた笑う。
その頃のようになんでも笑顔で片付けられたら
どんなに楽だっただろう。
でも、大人になった今ではそれは意味がない。
通り過ぎるのではなく、立ち向かわなければならない
私はつらい時こそ小さい頃の思い出の中から
父のひと言を思い出す。
「人生には必ず山がある。
その山を避けて遠回りして楽をするか、
意地でもその山を乗り越えるか。
それによって得られるものが異なる。
お前はどっちを取る?
その人のそのときの意志が人生の岐路となる。
だから答えは目の前に山が現れた時に自ずとみえる」
一度切れてしまった恋を戻そうとするのは
ただの徒労だろう。
終わってしまった恋にすがるのは意味がない。
だけど、その恋から得た思い出は意味がある。
あの人との楽しかったことや苦しかったことは
また誰かを好きになり縁が繋がったとき
思い出という名の経験が教科書になる日が来る。
もう恋はしない。
今の私はそう思ってるけど、
きっといつかはまた誰かにときめくだろう。
意味とか関係なく、ときめいて始まる恋だから。
毎晩のあなたからの電話でいつも励まされる。
悩み相談に乗ってくれるあなた。
あなたの会社の愚痴を聞くわたし。
二人の鉛のような重しを
毎日の電話という天秤に載せ、
互いに受け入れる事で釣り合う。
あなたが居てくれるから、わたしは前を向ける。
わたしが生きているから、あなたは支えられる。
あなたはこの詩を読んでおかしくて笑うかな。
でも、あなたがわたしの精神安定剤。
真っ暗な名前不明なこの場所で差し込む光過去の恋人
一筋の光から見るあの未来が輝くからまた夢で待つ