友達に裏切られたあの日
泣きながら目をつぶって布団を被った
暗闇の中で幾度もシャウトした
私のシャウトの合間に
私の声ではない誰かの声で「ねぇ!」と呼ぶ声がする
目を開けると暗闇の中で
大人になった十年後くらいの私がいた
私より大人なのに波にもまれた彼女の瞳は澄んでいた
彼女は涙を溜めて私に訴えかける
「裏切られても、いつかはそれは謝罪に変わる。
裏切る理由はボタンのかけ違いから生まれる。
今はわからないだろうけど、
とにかく今は、めげずに学校へ通い続けて。
今の私はそのあなたの勇気で成り立っているの」
私はその澄んだ瞳にいつかはなれると信じて、
明日のためにまた宿題に取り組んだ。
地位とか信頼などを築き上げてきたものを吹き飛ばす
そんな嵐が来ようとも
私は私らしくまたレンガを積んでいく
逆境を乗り越えてこそ真の強い壁を創り
まっさらになった時こそ自分らしさを描こうと
私は思うんだ
いつだって、めげなかったときにこそ
嵐の後の虹は現れるから
「君さ、ヴォーカルをやってよ」
それが音楽フェスという今日の祭りのきっかけだ。
友達とたわいのない話をしている俺にその子、りんは
いきなりスカウトしてきた。
始めはただの逆ナンかと思った。
歌に自信なんてないし、
もっぱらの聞く派だから歌詞もろくに覚えてない。
バンドのライブに行ったことなど一度か二度くらい。
それなのに、りんはのちにわかることだけど
俺のポテンシャルを掘り当てた。
数日後、顔を合わせたバンドメンバーは全員女だった。
本名を伏せる代わりにニックネームで呼び合っているらしい。
りんも本名ではないと本人が言った。
俺はハルキという偽名を名乗った。
初めて入ったスタジオに入ったとき、
その場にいる楽器たちに圧倒された。
初めてだった。
ドラムのどっしりとした佇まいをこんな間近で見たのは。
「早速だけどハルキ、何か歌って?」
ギターのルリが言った。
でも、俺が覚えているのはJ-POPの有数の一番の歌詞とそのサビだけ。
それでもいいと彼女たちは口を揃えていった。
俺が適当に曲名を告げ、演奏が始まる。
本人のように思い切って歌える自分に歓声が上がった。
そして、満場一致でヴォーカルの担当が俺に決定した。
俺はりん達の足を引っ張らないよう必死になって練習した。
カラオケにも行ったし、バンドのライブの映像を見て真似をした。
インディーズのバンドのライブにも参加してイメトレもした。
最低でも週に2回はみんなで音合わせをした。
スカウトされ、バンドのヴォーカルという役割を与えられた三ヶ月後の初夏。
初めて音楽スタジオでルナが作詞、作曲した曲で披露した。
そのときの歓声に対する喜びに俺は達成感を感じた。
りんの本当の目的は、それではなかった。
その一ヶ月後の夏にオーディションを兼ねた音楽フェスに挑んだ。
結果は残念に終わったが、今までのどんな夏祭りよりも
この音楽フェスは俺にとっては、忘れられないお祭りだ。
こんなとき、神さまが舞い降りてきたら、
どんな助言をして救うのだろうか?
会社の親しい同期の子がカスハラを受けて泣いていた。
私は「大丈夫だよ、私が力になるから」と言いながら、
彼の背中をさすった。
『大丈夫』以外の強いお守りになる言葉を探した。
ふとついて出てきた頭の中の一言は
『諦めないで一緒に戦おう』とか無責任な言葉の羅列だった。
彼はただ『ありがとう』だけを繰り返し、その場を後にした。
こういうとき、あのサクセスストーリーのドラマでは主人公になんて言ってたっけ?
そんなことが不意によみがえった。
セリフが思い出しても、
それが今のこのシーンに適してるとは言えない。
私はその夜、寝付けなかった。
「おはよー!」
あんなに落ち込んでいた同期の子が清々しい顔をして出勤してきた。
私は驚き、『大丈夫?』と尋ねた。
「昨日、女神さまが舞い降りて俺にこう言ってくれたんだ」
突然、彼は目を輝かせて私に言った。
普段はこんなことを言うタイプの性格ではないけど、
彼は真剣だった。
『ハラスメントを与えた客や内容を悩むよりも、
あなたが今やるべきことは
自分の心の拠り所を見つけること。
つまり、あなたの自信のあることや好きなことを
思い切ってやること。
そうすれば、ハラスメントを逆手にとって客の心をつかむ最高の仕事ができるはず。
人の心の痛みがわかるあなたには、
人を喜ばせる方法を知っているから』
彼から聞いた女神さまのお告げを私もお守りにしたくなった。
それから彼は、営業成績をメキメキと上げ、部長に就任した。
陰湿なイジメで心を病んだ少女がいた。
病気は彼女を狂わせ、生活は堕落した。
自殺しようと思っても出来ない自分は弱いと思った。
でも、今になってわかる。
それは強いことの裏返しだった。
前科者が更生するのと同じで、
病んだ心を復活させるのは並大抵のことではない。
ただ、諦めずに、『普通の幸せ』を得るために
社会に出るために、彼女は戦った。
そして彼女は数年かけて社会人となって貢献している。
これは、人によっては、フィクションに聞こえるだろう。
誰かのためになるかわからない。
でも、これは実話だと信じてほしい。
病んだ少女が『普通』に成り上がった話だと。
ネジが外れた人形は、自分でネジを創り、
新しい道を切り拓いた。
今、つらい人がこれを読んで涙が希望に変わることを
祈ってます。