そこには、廃墟のビルが立ち並んでいた。
まるで、人間が滅びたかの様に、ビルに草木が生い茂り、ボロボロになった壁が挨拶をしていた。
空はからっからに晴れ、布団がよく乾きそうな天気だ。
そんな場所で、二人の旅人が、砂埃で隠された景色を眺めていた。
「人間って脆いよね」
口を動かしたのは、カーキのコートを羽織った女性だ。
大人びた顔に、ベージュの髪が肩下まで伸びている。
「急に上位存在みたいな事、言わないでくださいよ。」
ツッコミを入れたのは、黒いマントで全身を隠している少年だ。
小さな体躯に、綿飴をちぎった様な灰色の髪が飾り付けられている。
「フィクションの世界だとさ、刀で胸を斬られてもすぐには死なないし、銃で撃たれても、普通に喋るじゃん。
でも現実はそんな事無い。そうだよね?」
女性の質問に答えながら、少年は額の汗を拭う。
「そうですね。高い所から落ちても死にますし、マグマに落ちたら、ジ・エンドですね。」
女性は相槌を打ち、問いかける。
「じゃあ、風の刃で胸を切り裂いて、ビルよりも高い場所から落としたら、人間って、死ぬよね?」
そうですね。と、少年が答えた。
「じゃあ、彼は人間じゃない。ってことで良いよね?」
女性が目の前の砂埃を見つめる。
少年は緊張した眼差しで、不安気に見つめる。
砂埃が徐々に晴れ、現れたのは一人の男性だった。
ベージュ色のふわふわとした髪と、高級レストランで食事ができそうな、おしゃれで整った茶色の服。
栗色の瞳が、20代前半程に見える顔に縫い付けられており、男性は静かに微笑んでいる。
風の刃で切り付けられた筈の服には、傷が一つも付けられておらず、高所から突き落とされた証なんて、何処にも無い。
今からプロポーズが出来てしまうほど、美しい姿だ。
「私みたいに生まれ変わったのか、それとも人間に擬態しているのか。どっちかわからないけど、これは…」
女性が不味そうな顔で、臨戦態勢を取る。
美しい男性は、ニコリと笑い、右腕を横に振った。
その合図に共鳴し、美しい男性の背後には、6丁のライフルが、空中に浮かび上がった。
二人の旅人はその銃を認識した瞬間、阿吽の呼吸で、近くのビルの物陰に向かって走り出した。
それと同時に、美しい男性は右腕を前に動かす。
ライフルは共鳴し、一斉に、激しい射撃を始めた。
間一髪で二人の旅人は物陰に隠れ、数歩先に銃弾のシャワーが流れている。
銃声にかき消されながら、少年が話しかけた。
「どうするんですか。あれ、どう見ても強いですよ!」
女性はぼーっと空を見つめ、銃声と問いかけを聞き、立ち上がった。
「そりゃあ勿論。逃げるよ!!」
お題『美しい』×『人体の限界』
「どうして」
そんな言葉が、こだまの様に反響する。
暗くてじめじめした、そんな洞窟に。
コウモリが潜んで、襲いかかってきそうな場所で。
「どうして」
と言った少年が、目の前のそれを見て顔を青くする。
透明な円柱のガラスに、並々と水のような液体が満たされている。
その中で、いろんな色のチューブに繋がれた少年が、目を閉じて、胎児の様に膝を抱えていた。
「どうして」
少年はもう一度、その言葉を発する。
目の前の少年と、自身の顔。
それが、全く同じだった。
まるで、幽体離脱でもしているかの様な気持ち悪さを感じ、少年は後退りをした。
「どうして」
少年と全く同じ声が、後ろからたくさん聞こえた。
振り向くと、先程まで暗かった壁に灯りが付き、隠されていた彼達が現れた。
みんな同じ顔、同じ姿、同じガラスの中で眠っている。
「どうして」
「こうなったんだ…」
足に力が入らなくなり、ぺたんとその場で座り込む。
彼は、後ろから近づいてきた、もう一人の自分に気づかなかった。
彼はニヤリと笑い、鈍い音を鳴らして、座り込んでいた彼の後頭部を、殴り、気絶させた。
「どうして?」
「それは勿論、キミが望んだからさ。」
お題『どうして』×『生命創造』
「もうやだ!!」
壊れたスピーカーの様な悲鳴が、暗い浜辺に広がった。
『どん』という物理音と共に、一人の男性が、一人の女性に突き飛ばされた。
二人の表情も、眼と髪の色も、服装も、全てが月の無い夜に呑まれ、誰にも分からない。
突き飛ばされた男は、ヘラヘラと笑いながら喋る。
「『もうやだ』ねぇ。言い出したのは、キミじゃないか。『一緒に生きたい』と言ったのは…ね?」
「あんたが、こんなキチガイだって知ってたら、そんな事言ってなかったわよ!お願い、もう終わりにしましょう。愛情も友情も、全部この海に捨てるの。良い!?」
スピーカーを直す様子も無く、女性が叫び続ける。
痺れを切らしたのか、笑った顔を見て怒ったのか。
女性はもう一度、先程よりも強く、男性の胸を押した。
男性は踏ん張ることもせず、そのまま、海に落ちた。
重い成人男性の全体重が、水飛沫と共に大きな音を立てて、暗い、黒い海に落ちる。
数秒経っても、男性の姿は現れず、手も、脚も、衣服も見えなかった。
女性は、その様子を見て、恐れたのか、スッキリしたのか、そのまま砂浜に足を囚われながら、その場を去ってしまった。
女性の姿が見えなくなり、一連の出来事が、暗い海と、砂浜しか覚えていなくなった頃。
ぷかりと、一つの物体が水面に浮き上がった。
それはクラゲだった。
水族館で見る、ベニクラゲ。
「あーあ、嫌われちゃった。」
ベニクラゲが、そう喋った。
発声器官など無いのに。感情など無いはずなのに。
「うーん。目の前で腕が再生したのが、ダメだったのかな。そっか、人間って、出来ないのか。」
当たり前なことを、ぶつぶつと、ぷかぷかと、呟き続ける。
暗い海が、砂浜が、恐怖で震えた。
ずっとこのまま、ここに居るのかと。
お題『ずっとこのまま』×『不老不死』
そこには赤ん坊がいた
おぎゃー、おぎゃーと、泣き叫んだ。
机、椅子、ベット、シャンデリア。
全てに、いくらのような宝石が装飾されてる。
これはダサいな、と愚者が口に出しそうな小さなベッドに、その赤ん坊はいた。
小さなベッドに隠れながら、視線から逃れながら、翡翠色の頭が、ひょこっとベットを覗きこむ。
肩上までに切り揃えられた髪を揺らしながら、泣き叫ぶ彼をなんとか止めようと、小声で話しかける。
しかし、一夜漬けの定期テストかのように、その努力は実らず、タイムリミットを知らせる足音が、部屋の外から聞こえて来た。
「やばい!またね!」
神様に語りかけるかのように、こそっと喋りかけ、タイムリミットと鉢合わせないように、急いでドアを開いて、廊下を走る。
部屋に残された赤ん坊の涙は、いつのまにか止まった。
そこには少年がいた
10代前半ほどで、少し痩せこけ、元は高価でクラシックなブラウスを着ていた。
彼はじっと、その光景を見つめていた。
家が、畑が、橋が、酒場が、遠くに見える城が。
燃えていた。
轟々と、大きな音を上げ、悲鳴を呑み込みながら。
少年の後ろを、慌ただしく女性達が走り抜ける。
手には包帯やら、水やら、クリームやら。
治療に使う道具を持って、倒れ、血を出し、骨がチラ見えした者達のそばに駆け寄り、治療する。
応急の場所は満タンで、治療か助けを求めて彷徨う人達で、更に圧迫する。
声もまともに届かない中、少年は肩を叩かれ、後ろにいた気配にやっと気づいた。
「良かった、無事だったんだ。」
翡翠色の髪の毛を、腰辺りまで伸ばし、結んだ、10代後半の少女がそこに居た。
所々が燃えた、白い、フリルのワンピースを着ていた。
「燃えちゃったねー、何もかも。父上も、母上も、みんな死んじゃってたよ。」
散歩をするかのように、軽く、楽観的に、そう言った。
「なんで、悲しそうじゃないの?」
少年は、そう聞いた。
「うーん、そうだなー、だって」
少女は当たり前のように答えた。
「燃やしたの、私だもん。」
人々の悲鳴が、肉体が、遺体が、想いが。
全て、全て、炎に呑み込まれた。
翡翠色の笑みが、少年を呑み込んだ。
二人の王族は、どこかに消えた。
お題『君と一緒に』×『赤ん坊』
「ふぁ〜あ。そろそろ寝ようよ。」
カーキのコートを羽織った女性が、ランプの灯りを見つめながら、そう呼びかける。
「諦めるの速すぎませんか?まだ、1時間しか経ってないですよ?」
窓の外から、ターゲットの家を見張っていた少年は、呆れながらそちらを見やる。
「あ、見て見て!今日はさんかっけいが見えるよ!」
「冬の大三角ですね。って、サラッと話をすり替えないでください。」
「いーじゃん、いーじゃん。…あのさ」
先程まで、初めて星を見た子供かの様にはしゃいでた彼女は、突然成人女性に様変わりする。
「星を見ると、師匠の事を思い出すんだよね。」
「それは…どんな思い出ですか?」
「くだらないんだけどね。二人で人のいない原っぱに出て、寝っ転がって…何も言わずにゴロゴロするの。」
好物を食べたかの様な顔で、彼女は話を続ける。
「その時はね、悩みも、将来も、死も、過去も。全てが無かったことになって…素敵だったんだ。」
少年は無言で彼女の側に立ち、一緒に星を見つめる。
「だから、彼の気持ちもわかるんだ。分かってしまうんだ。星になって…全てを忘れたい。全てを無かったことにしたい。って、その気持ちがさ。」
星がいっそう、煌めいてしまった。
その星空を見て少年は深呼吸をし、覚悟を決める。
「でも、だから私は止めなきゃいけない。
そんな無かったことにしたい思い出でも、誰かにとっては星の様に煌めく、大事な思い出だって。」
ランプの火が、ふっと消えた。
「それは、ランプの様にふっと消えてしまう。だから、ごめんね。君と相対するよ。」
その言葉に呼応するかの様に、流れ星がこちらに向かって高速で落ちてくる。
ドカンという音と衝撃波が充満し、二人がいた建物を吹き飛ばす。
星になったターゲットは、ぎらりとその輝きを此方に向ける。
まるで『邪魔をするな』と言っているかの様な、まるで『これ以上生きたくない』と願っているかの様な、そんな姿だった。
「さて始めようか。君の想いを、殺害させて貰うよ!」
お題『星になる』×『ランプ』