後に、最終決戦日と呼ばれる日。
沢海と優人は、人型の漆黒獣に囲まれていた。
「優人、これ突破できるか?」
「難しいね…だけどやってみる」
アイコンタクトを取り、同時に攻撃をする。
優人の盾で敵を突き飛ばし、沢海の放った矢で、道を作る。
思わぬ攻撃に、漆黒獣達は動揺していた。
「今だ!」
沢海の声と同時に、2人は包囲を突破する。
そのまま、空いた部屋に転がり込む。
周囲にある家具を、扉の前に置き、バリケードを作る。
優人は、背負っていたリュックから、宝玉を取り出し、床に置く。
宝玉からは、淡い桜色の光が輝いている。
「これは?」
「優花さんから貰ったんだ
この周囲には、漆黒獣が入って来れないんだって。」
「へー便利な道具だな てことは、暫くは休憩出来るってことか。」
「うん そういうこと」
優人が喋りながら、リュックサックの中を、ゴソゴソと漁り、何かを取り出す。
「はい、ジュース。」
「お!助かる〜喉カラッカラ、おまけに糖分も足りて無かったんだ。」
沢海は、嬉しそうにジュースを受け取り、キャップを取って、早速飲み始める。
「ぷは〜!戦い疲れた体に染み渡る〜」
気持ちよくジュースを飲む沢海を、優人が微笑ましそうに眺めていた。
「沢海くんさ、変わったよね。」
「え、そうか? 寧ろ前の状態に戻ってないか?」
「えっと、確かにテンションは、通り雨が降る前と変わらないけど。」
「なんというか、色々相談してくれたから…変わって見えるなって。」
少しの間の沈黙が訪れる
「そう…だな ちゃんと説明しようって、決めてたからな。」
「嬉しかったよ 言ってくれて 信頼されてるなって感じたから。」
「おう 勿論」
ガタガタと扉の外から、物音が聞こえてくる。
どうやら、漆黒獣が来てしまったらしい。
「おっと、休憩は終わりか。」
沢海が立ち上がり、弓を取り出す。
漆黒の色をしているが、矢は綺麗な白色だった。
「ジュースありがとな 美味かった」
「それなら良かった」
優人も立ち上がりながら、リュックサックを背負い、盾を取り出す。
漆黒の色をしているが、真ん中に白いエンブレムが描かれている。
「さて、あいつに会いに行くか。」
「うん。ちゃんとあのことを教えてあげなくちゃ。」
宝玉を拾い上げたその瞬間、扉が破壊される。
束の間の休息が終わり、2人の少年達は、親友に会いに行くために戦いを再開した。
お題『束の間の休息』
力を込めて、目の前にいる化け物を殴りつける。
終わりなんて存在しないような数に、圧倒されながらも、諦めずに殴り続ける。
傍から見たらどっちが化け物か分からないだろう。
私自身も、化け物なのだから。
体が漆黒に染まり、手はもはや、手の形では無くなっている。
背中には、赤黒く大きな羽が生えており、体は2Mを優に超えていた。
これの何処が人間なんだろうか
いっそ死んでしまいたい
そう思う
だけど、私は守りたい。
大切な親友を、雪を、この手で守る。
私を造ったあの人を、憎む。
だけど、守れる力をくれたのも、あの人だ。
後ろで雪が叫んでいる
きっと、もうやめてとか、そんな感じだろう。
ごめんね、それには応えられない。
なんとしてでも、守りたいんだ。
仲良くしてくれて、私を否定しなかった雪を。
人間としての意識が無くなりそうになる
でも、私は止まらない。
力を込めて、殴り続けた。
お題『力を込めて』
「優花さん、買ってきましたよー」
事務所の玄関から、両手に袋を持った優人が帰ってきた。
「おーおかえり 探してたものはあったか?」
「はい、ありました! 後、これお土産です。」
そう言って差し出したのは、コンビニのショートケーキだった。
「優花さん、好きそうだなって思って。
安かったんで買っちゃいました」
こちらの反応を気にするように、顔を向ける。
「あれ、もしかして嫌いだったり…」
「いや、別に嫌いじゃ無い。ただ…」
「ただ?」
「少し、昔の事を思い出してな。」
優人が興味津々に、私の隣に座る。
「なんだ」
「優花さんの昔話、聞きたいです。」
「昔話をするほどのことじゃない
友達が、今みたいにショートケーキ買ってきてな。」
ショートケーキを見ながら、あの頃を思い出す。
「なぁ、優花 これ、やるよ。」
勝が差し出したのは、コンビニのショートケーキだった。
「ん、なんで?」
「なんか好きそうだったから!」
バカっぽい答えに、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしてしまう。
「そんな理由で?」
「おう!あ、嫌いだっか?だったら俺が食っちm」
「いや、食べる。」
真顔で言いながら、食われないように、すぐさまショートケーキを奪い取る。
「よし、じゃあ俺もなんか食おうかな~」
勝が、袋をガサゴソと漁りはじめる。
遠くから、ドアの開く音がして、ルーナと幽夜が入ってきた。
「帰りましたわ〜あら?」
「おやおや、もう食べているようだね。」
「ずるいですわ〜!私も混ぜなさい!」
いつも通りの、わちゃわちゃが帰ってきた。
「ま、そんなことがあったんだよ。」
「良いですね、青春って感じがして。」
「まーな」
「そのお友達は、今でも仲が良いんですか?」
「……」
私が答えられず、黙っていると、外から夕焼けチャイムの音がする。
「おっと、もうこんな時間か。ほら、行くぞ。」
そそくさと、支度を済ませる。
その様子を見て、慌てながら優人も支度を始める。
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
明るさと暗さの境界線の時間に、優しい2人が出かける。
優しい女性は、過去と今の事を思いながら、歩く。
もう、あの時のように失いたくない。と
お題『過ぎた日を思う』
目に映るのは、空一面に広がる、反転した星座だった。
秋の大四辺形は無く、代わりに春の大三角形が見えた。
勿論、形は逆だったけど。
「どこ…ここ」
急に暗闇に包まれたかと思ったら、いつのまにか、この星空の下に立っていた。
辺りに明かりは無く、何処からか変な匂いがする。
例えるなら死臭。そんな匂い
「だ、誰か居ませんかー?」
恐る恐る、暗闇に向かって声をかける。
しかし、帰ってくるのは、無言。
流石に怖くなってきた
「と、取り敢えず歩こう。うん」
自身の恐怖を打ち消すように、声を出す。
人、せめて明かりがある所に向かおうと、何歩か歩くと、遠くから遠吠えが聞こえる。
まるで、自身の縄張りに入ってきた存在を、仲間に知らせるような、そんな音。
「!?お、狼?」
咄嗟に、その場から離れようと走り出す。
運動が出来ない体のせいか、中々スピードが出ない。
スタミナも勿論無いため、どれだけ走れるか分からない。
後ろを見ると、暗闇の中に2つの赤い光が見えた。
さっきの狼だ もう追ってきている
絶対に勝てない。
そんな出来レースに、焦りと恐怖が、足をこわばらせる。
「も、もう無理!」
スタミナが限界になり、声を漏らしたその瞬間。
何かを斬るような音が、後ろから聞こえた。
「え?」
振り返ると、そこには大きな鎌を持った同年代ぐらいの少年が立っていた。
どうやら、鎌で狼を斬ったらしい。
「え、あ、あの」
「すまない」
急な謝罪に驚く
「俺の不注意のせいで、あんたを巻き込んでしまった。」
「責任は取る 俺の後に着いてきてくれ」
そう言って、少年は走って行ってしまう。
「あ、待って!」
やっと見えた希望の明かりを見失わないように、限界になったスタミナに拍車をかけ、着いていく。
「あ、貴方いったい」
「俺は、鎌森風真。高校2年」
「あ、同い年だ。えっと、出雲雫(いずもしずく)です。」
狂った星空の下で、ぎこちない自己紹介をしながら、2人の少年少女が駆けていく。
お題『星座』
太陽が沈み、月と町の明かりのみが光を放つ時間。
3人の高校生達が、路地裏を走っていた。
「居たぞ、あそこだ!」
オレンジ髪の少年が、前に走っている存在を指差す。
「確かに…あいつで…間違いありませんわね。」
お嬢様口調の少女が、息を切らしながら喋る。
「ふふっ…か弱きお嬢様は、もうギブアップかな?」
キザっぽい少年が、少女を煽る。
「ま、まだまだですわ!あいつを倒すまで、私は止まりませんわよ!」
「お前ら、張り合ってる場合じゃないだろ!
ルーナ、魔法で足止め!」
「ええ、任せなさい!はぁぁぁ!」
ルーナが走りながら、虚空から杖を出す。
漆黒の杖の上に、キラキラと光る緑色の宝石が付いていた。
力を込め、杖を追っている存在に向ける。
すると、風の壁が突如出来上がり、道を塞ぐ。
追われてた存在は、立ち止まり、こちらの方に振り返る。
月光に照らされ、姿が明らかとなる。
それは、漆黒を身に纏っていた、人型の何かだった。
足止めのおかげで、3人組はその存在に追いつく。
「ルーナありがとう!
もう逃げられないぞ、化け物!」
化け物は唸り声をあげ、威嚇し始める。
ヤマアラシのように、背中から棘を出す。
「ほう?これが君の能力か…流石化け物…腕がなるじゃないか」
「ちょっと幽夜(ゆうや)、関心している場合じゃないですわ。さっさと倒しますわよ」
ルーナが呆れたように言う
幽夜は、いつのまにか手に短剣を持って、構えていた。
刃までも、漆黒に染まっている、短剣が月夜に照らされる。
「ということで、敵に情けは無用!
倒させてもらう!」
少年もレイピアを虚空から取り出し、化け物に攻撃を仕掛ける。
漆黒に染まった持ち手に、対をなすような白い刃が輝いている。
それに反抗するように、化け物は背中の針を放出し攻撃する。
少年は、それをレイピアで払いのけるが、それで手一杯のようだ。
ルーナは、風を吹かせ、針の勢いを弱める。
「幽夜!今だ!」
「勿論、分かっているさ!」
幽夜が化け物の懐に潜り込む。
首と思われる位置を、横に斬り払う。
頭と胴体が分かれ、頭がごとんと鈍い音をして落ちる。
戦闘終了 そう思い、ルーナとレイピアの少年はほっと息をつく。
「これで終わりですわね 案外拍子抜けでしたわ」
「…いや、まだ終わりじゃないよ」
「え?」
幽夜が短剣を構える
その瞬間、残った胴体のあらゆる場所から針が発射される。
幽夜が、目にも見えない動きで、その棘を全て払いのけた。
流石の動きに、2人はびっくりして動けなかった。
胴体だけになった化け物が、ゆっくりと立ち上がる。
落ちていた頭が溶け、首からにょきにょきと頭が生えてくる。
幽夜は化け物に近づき、攻撃を仕掛ける。
しかし、化け物がその攻撃を防ぐ。
「なかなかやるね…なら 僕と一曲、踊らないかい?」
カッコつけた言葉を言ったその瞬間、化け物と幽夜の真剣勝負が始まった。
2人が援護しようにも、出来ない。
入り込む隙が無いのだ
その2人は、まるで踊っているかのように、かろやかに戦っていた。
一つの芸術と言っても、過言では無い。
激しい攻防の末、またもや化け物の首がごとんと落ちる。
そして、化け物の体がサイコロステーキのように、バラバラになり、そして霧になって消えた。
今度こそ、戦闘終了だ。
「幽夜!大丈夫だったか!」
「あぁ、問題ないさ。2人とも、油断しすぎだよ。
今度から気をつけてくれ」
「た、確かにそうだけれど…貴方、無茶しすぎですわ!
私達を、もっと頼ってくださいまし!」
ルーナがぷんぷんと怒る
「それはすまなかった 僕1人でも倒せると思ってね」
「確かにお前は強いが、ルーナの言う通り無茶は禁物だ。俺たちも居るんだからな。」
少年が、幽夜の肩に手を置く。
「…ありがとう勝(しょう)君」
「さて、そろそろ帰りますわよ。3人揃って寝不足だと、優花に怪しまれますわ。」
スカートについた埃を払いながら、呼びかける。
「そうだな。じゃあ2人とも、帰ろうか。」
「あぁ、帰ろうか。」
3人の高校生達が、月光に照らされながら帰路に着く。
大切な友人に、本当の事を明かさぬまま。
お題『踊りませんか?』