「優花さん、買ってきましたよー」
事務所の玄関から、両手に袋を持った優人が帰ってきた。
「おーおかえり 探してたものはあったか?」
「はい、ありました! 後、これお土産です。」
そう言って差し出したのは、コンビニのショートケーキだった。
「優花さん、好きそうだなって思って。
安かったんで買っちゃいました」
こちらの反応を気にするように、顔を向ける。
「あれ、もしかして嫌いだったり…」
「いや、別に嫌いじゃ無い。ただ…」
「ただ?」
「少し、昔の事を思い出してな。」
優人が興味津々に、私の隣に座る。
「なんだ」
「優花さんの昔話、聞きたいです。」
「昔話をするほどのことじゃない
友達が、今みたいにショートケーキ買ってきてな。」
ショートケーキを見ながら、あの頃を思い出す。
「なぁ、優花 これ、やるよ。」
勝が差し出したのは、コンビニのショートケーキだった。
「ん、なんで?」
「なんか好きそうだったから!」
バカっぽい答えに、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしてしまう。
「そんな理由で?」
「おう!あ、嫌いだっか?だったら俺が食っちm」
「いや、食べる。」
真顔で言いながら、食われないように、すぐさまショートケーキを奪い取る。
「よし、じゃあ俺もなんか食おうかな~」
勝が、袋をガサゴソと漁りはじめる。
遠くから、ドアの開く音がして、ルーナと幽夜が入ってきた。
「帰りましたわ〜あら?」
「おやおや、もう食べているようだね。」
「ずるいですわ〜!私も混ぜなさい!」
いつも通りの、わちゃわちゃが帰ってきた。
「ま、そんなことがあったんだよ。」
「良いですね、青春って感じがして。」
「まーな」
「そのお友達は、今でも仲が良いんですか?」
「……」
私が答えられず、黙っていると、外から夕焼けチャイムの音がする。
「おっと、もうこんな時間か。ほら、行くぞ。」
そそくさと、支度を済ませる。
その様子を見て、慌てながら優人も支度を始める。
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
明るさと暗さの境界線の時間に、優しい2人が出かける。
優しい女性は、過去と今の事を思いながら、歩く。
もう、あの時のように失いたくない。と
お題『過ぎた日を思う』
目に映るのは、空一面に広がる、反転した星座だった。
秋の大四辺形は無く、代わりに春の大三角形が見えた。
勿論、形は逆だったけど。
「どこ…ここ」
急に暗闇に包まれたかと思ったら、いつのまにか、この星空の下に立っていた。
辺りに明かりは無く、何処からか変な匂いがする。
例えるなら死臭。そんな匂い
「だ、誰か居ませんかー?」
恐る恐る、暗闇に向かって声をかける。
しかし、帰ってくるのは、無言。
流石に怖くなってきた
「と、取り敢えず歩こう。うん」
自身の恐怖を打ち消すように、声を出す。
人、せめて明かりがある所に向かおうと、何歩か歩くと、遠くから遠吠えが聞こえる。
まるで、自身の縄張りに入ってきた存在を、仲間に知らせるような、そんな音。
「!?お、狼?」
咄嗟に、その場から離れようと走り出す。
運動が出来ない体のせいか、中々スピードが出ない。
スタミナも勿論無いため、どれだけ走れるか分からない。
後ろを見ると、暗闇の中に2つの赤い光が見えた。
さっきの狼だ もう追ってきている
絶対に勝てない。
そんな出来レースに、焦りと恐怖が、足をこわばらせる。
「も、もう無理!」
スタミナが限界になり、声を漏らしたその瞬間。
何かを斬るような音が、後ろから聞こえた。
「え?」
振り返ると、そこには大きな鎌を持った同年代ぐらいの少年が立っていた。
どうやら、鎌で狼を斬ったらしい。
「え、あ、あの」
「すまない」
急な謝罪に驚く
「俺の不注意のせいで、あんたを巻き込んでしまった。」
「責任は取る 俺の後に着いてきてくれ」
そう言って、少年は走って行ってしまう。
「あ、待って!」
やっと見えた希望の明かりを見失わないように、限界になったスタミナに拍車をかけ、着いていく。
「あ、貴方いったい」
「俺は、鎌森風真。高校2年」
「あ、同い年だ。えっと、出雲雫(いずもしずく)です。」
狂った星空の下で、ぎこちない自己紹介をしながら、2人の少年少女が駆けていく。
お題『星座』
太陽が沈み、月と町の明かりのみが光を放つ時間。
3人の高校生達が、路地裏を走っていた。
「居たぞ、あそこだ!」
オレンジ髪の少年が、前に走っている存在を指差す。
「確かに…あいつで…間違いありませんわね。」
お嬢様口調の少女が、息を切らしながら喋る。
「ふふっ…か弱きお嬢様は、もうギブアップかな?」
キザっぽい少年が、少女を煽る。
「ま、まだまだですわ!あいつを倒すまで、私は止まりませんわよ!」
「お前ら、張り合ってる場合じゃないだろ!
ルーナ、魔法で足止め!」
「ええ、任せなさい!はぁぁぁ!」
ルーナが走りながら、虚空から杖を出す。
漆黒の杖の上に、キラキラと光る緑色の宝石が付いていた。
力を込め、杖を追っている存在に向ける。
すると、風の壁が突如出来上がり、道を塞ぐ。
追われてた存在は、立ち止まり、こちらの方に振り返る。
月光に照らされ、姿が明らかとなる。
それは、漆黒を身に纏っていた、人型の何かだった。
足止めのおかげで、3人組はその存在に追いつく。
「ルーナありがとう!
もう逃げられないぞ、化け物!」
化け物は唸り声をあげ、威嚇し始める。
ヤマアラシのように、背中から棘を出す。
「ほう?これが君の能力か…流石化け物…腕がなるじゃないか」
「ちょっと幽夜(ゆうや)、関心している場合じゃないですわ。さっさと倒しますわよ」
ルーナが呆れたように言う
幽夜は、いつのまにか手に短剣を持って、構えていた。
刃までも、漆黒に染まっている、短剣が月夜に照らされる。
「ということで、敵に情けは無用!
倒させてもらう!」
少年もレイピアを虚空から取り出し、化け物に攻撃を仕掛ける。
漆黒に染まった持ち手に、対をなすような白い刃が輝いている。
それに反抗するように、化け物は背中の針を放出し攻撃する。
少年は、それをレイピアで払いのけるが、それで手一杯のようだ。
ルーナは、風を吹かせ、針の勢いを弱める。
「幽夜!今だ!」
「勿論、分かっているさ!」
幽夜が化け物の懐に潜り込む。
首と思われる位置を、横に斬り払う。
頭と胴体が分かれ、頭がごとんと鈍い音をして落ちる。
戦闘終了 そう思い、ルーナとレイピアの少年はほっと息をつく。
「これで終わりですわね 案外拍子抜けでしたわ」
「…いや、まだ終わりじゃないよ」
「え?」
幽夜が短剣を構える
その瞬間、残った胴体のあらゆる場所から針が発射される。
幽夜が、目にも見えない動きで、その棘を全て払いのけた。
流石の動きに、2人はびっくりして動けなかった。
胴体だけになった化け物が、ゆっくりと立ち上がる。
落ちていた頭が溶け、首からにょきにょきと頭が生えてくる。
幽夜は化け物に近づき、攻撃を仕掛ける。
しかし、化け物がその攻撃を防ぐ。
「なかなかやるね…なら 僕と一曲、踊らないかい?」
カッコつけた言葉を言ったその瞬間、化け物と幽夜の真剣勝負が始まった。
2人が援護しようにも、出来ない。
入り込む隙が無いのだ
その2人は、まるで踊っているかのように、かろやかに戦っていた。
一つの芸術と言っても、過言では無い。
激しい攻防の末、またもや化け物の首がごとんと落ちる。
そして、化け物の体がサイコロステーキのように、バラバラになり、そして霧になって消えた。
今度こそ、戦闘終了だ。
「幽夜!大丈夫だったか!」
「あぁ、問題ないさ。2人とも、油断しすぎだよ。
今度から気をつけてくれ」
「た、確かにそうだけれど…貴方、無茶しすぎですわ!
私達を、もっと頼ってくださいまし!」
ルーナがぷんぷんと怒る
「それはすまなかった 僕1人でも倒せると思ってね」
「確かにお前は強いが、ルーナの言う通り無茶は禁物だ。俺たちも居るんだからな。」
少年が、幽夜の肩に手を置く。
「…ありがとう勝(しょう)君」
「さて、そろそろ帰りますわよ。3人揃って寝不足だと、優花に怪しまれますわ。」
スカートについた埃を払いながら、呼びかける。
「そうだな。じゃあ2人とも、帰ろうか。」
「あぁ、帰ろうか。」
3人の高校生達が、月光に照らされながら帰路に着く。
大切な友人に、本当の事を明かさぬまま。
お題『踊りませんか?』
道を塞いでいる、漆黒獣の頭を射抜く。
人型だったおかげで、獣型より頭が狙いやすかった。
弓をしまい、全速力で走り出す。
ずっと会えなかったあいつに、会うために。
月が太陽に、太陽が月になったこの世界。
相変わらず気味が悪い 自然と鳥肌が立つ
走っていると、赤い山が見えてきた。
「なんだ、あの山。気持ち悪りぃ」
スポンジで血を吸ったかのような色
木々は枯れ、死臭がする。
俺の友達が、ここに居るはずだ。
周囲を見渡しながら、山の中に入る。
「風真ーー! どこに居るー!」
鳥が居たら逃げ出すような声を出して、探す。
返事が来ず、もう一度大声を出そうとしたその瞬間。
後ろから物音が聞こえる
振り返ると、獣型の漆黒獣が、俺に噛みつこうとしていた。
まずい 間に合わない
死を覚悟した瞬間、漆黒獣が横に真っ二つになった。
声も上げないまま、その漆黒獣は霧となり消える。
「あんな大声で探してたら、あいつらに位置を教えてるようなもんだろうが。」
俺の探していたやつが、歩いてくる。
相変わらず、トゲトゲしたような性格が髪に現れている。
目に優しそうな緑の髪色で、身長より大きい黒い鎌を持っていた。
「風真!」
「少しは反省しろ ここはあいつらの領地だぞ」
「ご、ごめん…」
「で?なんで俺を探してた」
「あぁ、それなんだけど、実は…」
説明をしようとしたその時、遠くから遠吠えが聞こえた。
声の方角を見ると、さっきの獣型が群れをなしていた。
今にもこちらに襲いかかってきそうだ
「おいおい、これやばくないかぁ!?」
「流石にこの数は無理だな 沢海、逃げるぞ。」
こうして、裏世界で巡り会えた俺らは、漆黒獣から逃げようと走る。
まるで、あの通り雨の時のように。
お題『巡り会えたら』
目の前には、地獄絵図が広がっていた。
私達の家は燃え、両親は化け物に殺された。
そして私は、瓦礫に挟まれ動けない。
「お姉ちゃん!!」
妹の雪が、私に助けを求める。
妹は、漆黒の化け物に担がれ、攫われようとしている。
足をバタバタと動かし、抵抗するも、がたいの良い化け物にはびくともしない。
なんとか助けようと、体を動かす。
瓦礫が体に食い込み、気を失いそうな痛みが、痛覚を刺激する。
正直、意識を保ててるのは火事場の馬鹿力のおかげだろう。
だが、立ち上がれない。助けられない
助けを求める雪の顔が、目に焼き付く。
助けたい 助けたい 助けたい!
あの時、暗闇の世界で助けてくれた彼のように、
今度は私が雪を助けるんだ!!
もう使い切った火事場の馬鹿力を、もう一回発動させようとする。
無理に起きあがろうとして、体中から血が流れる。
きっと側から見たら、そうとうグロいだろう。
(もう一回、もう一回だけで良い。だから
あの時の奇跡をもう一度!!)
強く願ったその瞬間
私は暗闇の中にいた
この世界の闇、裏側。全てを知り、背負う覚悟は決めたか?
体に響き、低く、重い言葉が聞こえてくる。
(それで、雪を救えるのなら。)
そう、答えた瞬間。
暗闇から抜け出し、元の世界に戻った。
相変わらず、辺りは燃えており、目の前で連れ去られそうになっている雪の姿が見える。
今なら助けられる
謎の自信があった
病弱で、まともに外へ出かけられない私が。
ぐっと体を起こすと、さっきまで起きれなかったのが嘘のように、立ち上がれる。
瓦礫の重さが、発泡スチロールのように軽かった。
雪は驚いているようだ
化け物も流石の異常さに、こちらを振り向く。
その間に、私は虚空から薙刀を取り出していた。
一体どうやったのか、分からない。
ただ、手を握るように、自然と出来てしまった。
薙刀は、夜空の色で浸けたような、漆黒の色だった。
その薙刀で、化け物を攻撃しようと、踏み込む。
こうすれば死ぬ 何故か直感で分かった
私は、薙刀を素早い速度で横に振り、攻撃する。
化け物は反応する間も無く、横に真っ二つになり、霧のようになり、消えた。
担がれていた雪が、地面に落ちる。
「雪!」
私は、雪の元に駆け寄ろうとするが、足がもつれて転んでしまう。
手から薙刀が離れ、薙刀は虚空の中に消えてしまった。
「お、お姉ちゃん!」
体勢を整えながら、雪が駆け寄ってくる。
視界がだんだんとぼやけてくる。
雪の声が微かに聞こえてくる
まぶたが岩のように重い
そのまま、私は意識を無くした。
お題『奇跡をもう一度』