ただひたすらにペンを動かした。
ほんとうになにも考えたくはないんだ。
数字を扱ってる時間だけは僕は何も考えないでいられたから。
この先のことも君のこともあの日のことも。
なんにも考えずに、瞬きすら億劫に感じるほど、僕はきっと弱かった。
ふと手を止めた時に考えてしまった。
ああ、考えてしまったんだ。
君の培った孤独について。
君はただずっと寂しかったんだ。
あの空に蠢くさそりのような、サーカスで火の輪をくぐるライオンのような、ドアの小窓からこちらを除く闇のような、そんな君の寂しさを、思慮を、白痴だと笑った彼らの罪はきっと許されるものでは無いから。
彼らは地獄に堕ちるだろうね。
地獄の門を叩けばその熱さに手が焼けこげればいい。
閻魔様の元にすらたどり着けずに足が取れてしまえばいい。
その薄気味悪い笑顔をビリビリと破られてしまえばいい。
ほんとうに、それを望むんだよ。
だって僕は君が好きだから。
せかいでいちばん、僕のおひめさまだったから。
君にはこれからいくつもの幸せが訪れるはずだから。
かの有名な織姫も目が飛び出でるほど驚くような綺麗なドレスを着て、指の先から足の先までぬるま湯に浸かっているような暖かさが続いて、眠る前の微睡みのような心地良さの中で生きていけるはずだから。
だから、ぼくは。
入ってこないでね。
くしゃり。
平均点にも届かなかった僕のテスト。
くしゃり。
何度も何度も間違えた、それを何度も何度も修正した、僕のノート。
くしゃり。
目標には程遠い、僕の成績表。
堂々と現実を突きつけてくる冬の寒空に、今に見てろと舌打ちを零す。
涙が凍らないように、くるりとマフラーを巻く。
もう決して、凍らないように。燃え続けるように。
希死念慮が消えてくれない。
紛らわすために息を吐く。
このまま一緒に腹の底にたまったどろどろを吐き出せたらいいのに、なんて願いながら。
4月23日。晴天の日のことである。
降る俄雨に狐の嫁入りと呟く彼女は正しく神である。
絶対不変の神であり、私の奥底に居座る人である。
彼女は語る。
「私に生涯をかけて勝てぬと知り、世の理に逆らわず身を差し出す姿勢は高く評価しよう。」
何の神だ。
愚かな問だ。
だから貴様はいつまで経ってもつまらぬ凡であるのだ。
あぁ、名乗りは結構。
凡愚を名を覚えるのに時間をかけるのは些か無駄だと感じる質でな。
何の神?全てだ。
私の脳細胞一つ一つはエデンに成る知恵の実を遥かに凌駕し、その美貌にはかの有名なモナ・リザも顔をムンクの叫びのようにして歪んだ時間世界に逃げ出してしまうだろう。
貴様らが生涯を通して触れ合うことの出来る唯一の神。
それが私だ。
その答えに、私の信仰全てが彼女の所有物となった。
もっとも、彼女はそれを望まなかったが。
しかしまあ、信仰なんて押し付けに過ぎない。
彼女が望もうが望まないが知ったこっちゃない。
私は私の清い信仰を勝手に押し付けるのみだ。
「三千世界の鴉を殺し、貴方と朝寝がしてみたい。」
そう呟けば彼女は喉を鳴らす。
彼女の癖だった。