希死念慮が消えてくれない。
紛らわすために息を吐く。
このまま一緒に腹の底にたまったどろどろを吐き出せたらいいのに、なんて願いながら。
4月23日。晴天の日のことである。
降る俄雨に狐の嫁入りと呟く彼女は正しく神である。
絶対不変の神であり、私の奥底に居座る人である。
彼女は語る。
「私に生涯をかけて勝てぬと知り、世の理に逆らわず身を差し出す姿勢は高く評価しよう。」
何の神だ。
愚かな問だ。
だから貴様はいつまで経ってもつまらぬ凡であるのだ。
あぁ、名乗りは結構。
凡愚を名を覚えるのに時間をかけるのは些か無駄だと感じる質でな。
何の神?全てだ。
私の脳細胞一つ一つはエデンに成る知恵の実を遥かに凌駕し、その美貌にはかの有名なモナ・リザも顔をムンクの叫びのようにして歪んだ時間世界に逃げ出してしまうだろう。
貴様らが生涯を通して触れ合うことの出来る唯一の神。
それが私だ。
その答えに、私の信仰全てが彼女の所有物となった。
もっとも、彼女はそれを望まなかったが。
しかしまあ、信仰なんて押し付けに過ぎない。
彼女が望もうが望まないが知ったこっちゃない。
私は私の清い信仰を勝手に押し付けるのみだ。
「三千世界の鴉を殺し、貴方と朝寝がしてみたい。」
そう呟けば彼女は喉を鳴らす。
彼女の癖だった。
休む、という行為に少なからず罪悪感を覚える。
しかしまあ、兎にも角にも行きたくないのだから仕方がない。
ブルーライトに目を細めながら休むと友人に伝える。
すぐに軽快な音を鳴らして帰ってきた返事を既読をつけないように長押しで確認してみる。
その内容一つ一つに苛立って仕方がない。
なんで休むの?しょうもない理由だったら怒るよ。
なんでもいいだろ。なんで理由一つ一つを他人のお前に規制されなければならない。
明日は来てよ?
だからどうしてこいつは私の行動を一々支配しようとするのだ。
私はお前のものではないし、私の自由はお前にどうこうできるものでは無いし、そこまで入り込んでくることを許した覚えはない。
あぁ、頭の、前頭葉のあたりが痛みだす。
休むことを知らせたことを後悔しつつ、ブルーライトを消して、毛布に潜り込む。
そうして目を瞑れば、心地の良い微睡みが次第にやってくる。
それに身を任せてゆらゆらと揺蕩う水面のごとく意識を沈めていく。
それがどんなに幸せで、気持ちがいいか、知らないんだろうな、あの馬鹿は。
上を見始めたらキリがなくて、下を見始めれば終わりが近くなるから、ただ前を向いていることにするよ。
気が付いたんだ。
君は少し臆病な普通の女の子だって。
神童なんて程遠い、普通の女の子。
そんな普通の君が神様の名を背負う必要なんて無かったんだよ。それでも、僕たちが君を作ってしまったから、君はずっと演技をしてくれてた。
もう大丈夫だよ。
怖かったね。寂しかったね。もう大丈夫。
そばにいるよ。
冷たい風が頬を撫でる。
ついでに、とでも言いたげに指先を痛めつける。
それに苛立っては、どうしようもない倦怠感が心の底に溜まる。
重みを増した不安やら不満やら、どす黒い何かはゆっくりゆっくり、酷くライトに私を刺す。
だから冬は嫌いだ。
とは言えど、よくよく考えれば夏も春も秋も別に好きじゃない。
それでも貴方の隣にいれば少しは好きになれる予感がして。
他者から見ても自分から見ても終わってる私が、君の隣にいれば少しはマシになる気がして。
そうやって引っ付いてみたけれど、やっぱり君のきらきらに私が霞んで何も見えなくなるから、結局1人でいいやなんて離れては、孤独に耐えきれなくなってまた溺れてる。
ばかみたい。