私の好きな昔の歌に、こんな歌詞があった
「言葉の弱さに燃え尽き、そして君は歌うだろう」
私はいつも伝えたいことが言葉にできない
伝えたいと思うことはみんな形而上になってしまう
詩人たちはきっとみんなそうなんだろう
だから私は言葉を探す
時に言葉を大袈裟に飾り
時に言葉を大幅に削いで
そうして伝わるものが 私の胸の内と同じでなくても
誰かの心にに少しだけ残ればいいと思うんだ
お題:言葉にできない
人の気も知らないで
温む空気 白い陽光 散る桜
お題:春爛漫
あの春の私は
世界中のどこの誰よりも死を望んでいた
自死を選べば 世界中の何もかもが
きっと良くなるような気がしていた
私は美しい絵画に一雫飛んでしまった
黒いインキのようなものだった
慌てて拭おうとすればするほど
滲んで広がって、取れなくなってゆくような
あの春の私は そういうものだった
私はありったけの薬と一瓶のアルコールを用意して
そしてそれらを 嘔吐きながら飲み下した
何回にも分けて 自らを死へと押しやろうとした
結局のところ それは叶わなかった
目覚めた後には 幾つかの地獄が
口を開けて待っていただけだった
春になるたびに今でも
あの春の私が 六道の辻から私を呼ぶ声がする
私の中の何かを確かに あの時に亡くしたのだ
それが今でも 私の背中を這い上がって
肩に 首に 心の臓に絡みついて
あっちだよ、と死の方を指差す
お題:誰よりも、ずっと
仕事を終えて主人と食卓を囲み
私の部屋で他愛のない話をして
ほんの少しのじゃれあいをして
休みにはどこかに出かけて外食をして
夜になれば音楽を聴きながら眠りにつく
お題:これからも、ずっと
斜陽が
名残惜しげに世界を染めてゆく
宵の紫を引き連れて
千切れ行く月を引き連れて
何もかもが死んでゆくような
そんな静謐さを世界に撒き散らして
水平線の彼方へ消えてゆく
私だけがまるで世界の全てに拒まれたように
ぐらつく足元で帰路に着く
まだあの未練がましい橙が
瞼の裏を離れない
お題:沈む夕日