ひのえ

Open App

あの春の私は
世界中のどこの誰よりも死を望んでいた
自死を選べば 世界中の何もかもが
きっと良くなるような気がしていた

私は美しい絵画に一雫飛んでしまった
黒いインキのようなものだった
慌てて拭おうとすればするほど
滲んで広がって、取れなくなってゆくような
あの春の私は そういうものだった

私はありったけの薬と一瓶のアルコールを用意して
そしてそれらを 嘔吐きながら飲み下した
何回にも分けて 自らを死へと押しやろうとした

結局のところ それは叶わなかった
目覚めた後には 幾つかの地獄が
口を開けて待っていただけだった

春になるたびに今でも
あの春の私が 六道の辻から私を呼ぶ声がする
私の中の何かを確かに あの時に亡くしたのだ
それが今でも 私の背中を這い上がって
肩に 首に 心の臓に絡みついて
あっちだよ、と死の方を指差す






お題:誰よりも、ずっと

4/9/2024, 1:30:32 PM