張り詰めたような透明な冬の空気に
紅茶の香りがそっと入り混じってゆく
まだ布団の温もりを体の芯に抱えたままで
貴方のお勧めしてくれたコーヒーを
まだ戸棚の奥に隠している
貴方のことを思い出す朝が幾日来たとしても
私はきっと紅茶を淹れ続ける
たっぷりのミルクでぼかす様に
愛しているの言葉をそっとしまい込んで
根雪の下で花が春を待つ様な気持ちで
私は黙ったまま 貴方のために祈っている
お題:隠された手紙
私はある日 一本のアンティークの涙壺を買った
ずっと涙壺という物に憧れていた
それは言葉通りに涙を溜めるために作られた
剥がれかけの金彩がなお美しい 硝子管
誰かが昔 伴侶を亡くした悲しみの涙ををここに封じた
あるいは戦地に行く夫に お守りとして渡すこともあったという
私は出来心で 宝石観察用の紫外線ライトを当てた
そこには確かに 何かが溜められていた跡があった
私の手の中に 誰かの耐え難い痛みがある
中の涙が乾けば 喪が開ける
そう言い伝えられてはいるけれど
きっとここにはまだ 100年の悼みが封じられている
私は涙壺を見て思う
誰かの死を前に 私はちゃんと泣けるだろうか と
お題:透明な涙
帰りたい
あなたの笑顔を見に
帰りたい
あなたに土産話を聞かせに
お題:あなたのもとへ
いつもと同じように
ドイツクリスマスマーケットへ行こうよ
赤のホットワインを飲もう
きっとおいしいから
一緒にイルミネーションに紛れて
窮屈な世界から切り離されに行こうよ
夢よりも灼かな光に浮かされて
ベツレヘムの星を探そう
あなたと夢をまだみていたいんだ
こんなにも寒い冬だから
お題:冬は一緒に
もっと話そう
明日のことも いつかのことも
あなたと話していたいんだ
冬の寒さの中で 春に咲く花の話をしよう
この狭い6畳の部屋で プラネットナインの話をしよう
つまらない日常の中で アウイナイトの話をしよう
今日占った ルノルマンカードの話をしよう
編みかけのレースの話をしようよ
あなたと話がしたいんだ
お題:とりとめのない話