私はある日 一本のアンティークの涙壺を買った
ずっと涙壺という物に憧れていた
それは言葉通りに涙を溜めるために作られた
剥がれかけの金彩がなお美しい 硝子管
誰かが昔 伴侶を亡くした悲しみの涙ををここに封じた
あるいは戦地に行く夫に お守りとして渡すこともあったという
私は出来心で 宝石観察用の紫外線ライトを当てた
そこには確かに 何かが溜められていた跡があった
私の手の中に 誰かの耐え難い痛みがある
中の涙が乾けば 喪が開ける
そう言い伝えられてはいるけれど
きっとここにはまだ 100年の悼みが封じられている
私は涙壺を見て思う
誰かの死を前に 私はちゃんと泣けるだろうか と
お題:透明な涙
1/16/2025, 11:10:22 AM