ある日、仕事を終えて帰宅しようと駐輪場に停めていた自転車に乗ろうとした時、
ふと自転車のカゴに紙飛行機が入っているのを見つけた。
誰かのいたずらかと思い、ため息をつく。
よく見ると文字がびっしり書かれていることに気づくと私はその紙を広げた。
そこには運命のいたずらかと思うような目を疑う手紙だった。
「10年前の◯◯へ」
そこから始まるその手紙は明らかに私の名前で間違いない。
なぜなら字のクセが今の私と全く変わっていないからだ。
手紙を読み進んでいくと10年後の私は、もうこの職場で働いていないらしい。
その代わり、憧れだった出版社に正社員として勤務していると書いてある。
また、その職場で出会った男性に、
10年後の昨日プロポーズを受けたという衝撃的な事実が記されている。
「では、今の彼氏は?いつ別れたの?」
そう思いながら読み進めても今の私とは縁のないことばかり書いてある。
まるで、神様が私を試しているかのように有る事無い事を書いて天の上から面白がっていると疑い始めた。
でも、手紙の終盤の文章でその思考は払拭された。
「今のあなたのバイト先で働いている人たちは、今のあなたを成長させている。
あなたはこの手紙を読んで大部分を疑っているだろう。
それも無理はないはず。
だってこの手紙は、あなたの夢を神様がなぞらえて書いた手紙だもの。
だけど、一つだけ信じてほしい。
あなたがこれからも真面目に努力をすれば10年後はこの手紙の通りになる。
努力といっても特別なことはやらなくていい。
好きなことをやればいい。
「好きこそ物の上手なれ」だから。
今のあなた次第で手紙は現実のものとなります」
それを読み終えた私は手紙をカバンにしまい、
まだ会えない未来へと向かって自転車を走らせた。
中学生の頃、私はある歌詞に出会った。
それは物語詩ともいえるような流れるような歌詞。
「こんな詩を書けるようになりたい」と密かに思った。
それは夢に似ていた。
私はあの歌詞に出会ってからずっと、
その歌詞に出てくる『あなた』を探していた。
お互いを傷つけながらも愛を育んでいく恋を望んでいた
大人になってそれにならった恋をした。
だけど、その恋は長くは続かなかった。
でも、その経験から得たものがある。
あの日、私が出会った歌詞のような優れた詩はまだ書けないが
あふれ出てくる言葉たちは、詩によって編まれていく。
あの頃に抱いた大きく漠然とした願いを私は今叶えようとしている。
「待っててね。あなたの夢は今の私が実らせるから」
もし悩んでる君に私の想いを伝えられるのなら
「相談に乗るよ」が一番適切かもしれない。
だけど私はこう伝えたい。
「君の目の前にあるそのイスは
君の中の苦い思いを吐き捨てる権利を与えるツールだよ。
そこに座れば心のモヤモヤの霧が晴れるから。
小さな勇気を持った時に少しだけだけでも話してみて。
私はそのイスに出会えなかったから、
君には私の二の舞になってほしくないから」
無知なある少女がこの田舎町で育った。
彼女は「都会」を遠い国のように思っていた。
それを身近に感じるのにさほど時間はかからなかった。
ある日、年上のある男が少女に恋を教えた。
その日、年上のある男は少女を旅に誘った。
親にこの旅を内緒にして少女は彼の誘いに乗った。
少女は親にとがめられることを知らなかった。
彼は正しいと少女は思い込んでいた。
無知という致命的な欠点が身から出た錆だった。
少女を旅に誘ったある男は目的地に着いた数日後に、
姿を消した。
少女は涙が枯れるまで泣いた。
そして、彼女は悟った。
「何も知らないならば、経験を身につければいい」
この場所で、彼女は、ある男によって少女を卒業した。
「あと5分か」
そう思ってため息をつきながら、
時計の秒針を目で追いながら長針が『8』に近づくのを
そっと見つめる。
今は国語の試験の終盤で、
私は分からなくて飛ばした漢字の問題に再び頭をひねる
時計を見ていれば思い出すだろう。
あの日、あの時、小説で読んだあの漢字を必死に具現化する。
でも、頭に浮かぶのは漢字ではなく小説の内容。
あと1分で長針が『8』にたどり着くと思うと、
今すぐにでもあの秒針を抜き取りたくなる。
秒針さえなければ時計は回らないだろうと
そんな余計なことを思いついた30秒前。
思い出した!
「抜擢(バッテキ)」だ!
急いで書いたその字は意表を突いた新しい漢字に見えた