「買い置きのアイス」
お盆が終わっても、体温並みの気温の日々。
「台風も発生しないなんて、本当におかしいよね、今年は」
そう言うと、姉はパタパタと団扇で仰ぎながらキッチンへ向かった。
「げっ!アイスもう無いじゃん!」
「そういや親父が昨日風呂上がりにチョコモナカジャンボ食ってた」
「ほんとに?あんたじゃなくて?」
姉のアイスを食べるなんて、そんな恐ろしいこと俺ができるわけないだろう。
「うーん……お父さんならまぁ……許す」
「ファザコンかよ」
「あー、はいはい、そうですよ、ファザコンですよ。仕方ない、買ってくるか」
「あ、じゃあ俺の分も」
「なんって図々しい!働かざる者食うべからず!」
たしかに、親父はお盆休みなく働いているし、俺はバイトもせずグータラ……いや、高校二年の夏休みを満喫してるけど。
「家事はしてるよ!」
掃除の下手な姉の代わりに!
「はいはいはいはい。代金は後払いね」
姉は俺にだけ厳しい。
────終わらない夏
2025.08.17.
「今だから言えること」
あの街から飛び出してからの日々は、忙しくも充実していて、つい忘れそうになる。
きっとあの人は、今も追い続けているんだろう。
もう私には関係ない。
あの街で過ごしていたことも。
あの人が見ていたものも。
それでも、あの人の願いがいつか叶えば良いと思う。
あんなことがあったけど、今の私がいるのは、間違いなくあの人の出会いがあったから。
────遠くの空へ
2025.08.16.
「運命の出会いなんて信じてなかった」
興味がないわけではなかった。
でも、興味がないふりをしていたんだ。
三次元なんて興味がない。今は推し活で充分──などと言って。
友人が恋人に裏切られる話を聞くたびに、恋愛って面倒だなぁと思っていたのもある。
それになにより、自分に自信がなかったのだ。
だけど、面倒そうだと思っていても、自信がなくても、それはいきなりやってきた。
『雷に撃たれたような出会いだった』
フィクションでは見かける表現。
そんなことあるわけないって、思ってた。
あなたに出逢うまでは────
────!マークじゃ足りない感情
2025.08.15.
「あなたは反射するもの」
グラデーションの墨色に、ひとつだけ淡い色。
私の描いた絵を見て、彼が呟く。
「あの風景、君にはこんな風に見えているんだな」
あのとき、私は気づいたのだ。
なぜ、彼と一緒にいる時に風景が違って見えるのか──ということに。
「非常に興味深い」
自身の顎を撫でながら、彼は頷く。
「君の見る世界がどういうものか、僕に見せてくれないか」
息を呑み、彼の顔を見つめる。
「その……これからもずっと」
頬を染めながら付け足した一言に、胸が詰まる。
それって、それって……
────君が見た景色
2025.08.14.
「だから僕は今日も本を開く」
たぶん、自分はいわゆる『普通』ではない。そういう自覚はある。
多くの人が『言葉にしなくてもわかること』がわからないのだ。
胸の奥の疼くような感覚や、身体を流れる血がフツフツとするような感覚。
今まで味わったことのないものばかり。
『普通』に少しでも近づきたい。
そうしたら、あの子の考えていることがわかるかもしれない。
────言葉にならないもの
2025.08.13.