「姉の苦悩」
サンタクロースの正体を知ったのは、私が五歳、弟が三歳の時だった。
我が家のサンタはふたり。
そのうちのひとりは女のサンタで、私にこう言ったのだ。
「あの子には、私たちサンタの正体は内緒よ」
あれから十三年。
弟はいまだにサンタクロースの存在を信じている。
高校生にもなってどうなのかと思う。
だけど、弟の友人たちも本当のことを言わずにいてくれているなんて、あいつは恵まれている。
いや、私と同じく、いつまで信じていられるか面白がっているだけかも。
母は大丈夫かしらと心配しているが、大丈夫でしょう。サンタの正体知っても、弟のことだ、せいぜいプチ家出するくらいだろう。しかも家出先は、あいつの友人宅だろうから。
一方、私はいつの頃からか、サンタクロースの仲間になっていた。
毎年送られてくる、サンタクロースへの手紙の返事を書くのが私の役目。
弟は頑張って英語で書いてくれるんだけど、スペルとか文法とか色々間違いだらけ。添削したいのをグッと堪えている。
────やさしい嘘
「もしそれが本当なら」
もしかしたら、もしかするかもって、思っては打ち消していた。
彼の瞳に私が映っている。
たぶん、私の瞳には彼が。
保育園の頃──男女の違いもよくわかっていなかった頃からの付き合いだから、距離が近いなんて今さらだ。
だけど、付き合ってもいない男女の『ふつうの距離』ではないことくらい、この年になれば流石にわかっている。
もしかして、もしかしたらって──
それは、彼の気持ちだけではなく、私の気持ちも。
これ以上ないほどに近くなる。
期待、疑惑、混乱、そして、確信?
瞼を閉じて、それを確かめる。
────瞳をとじて
「お気持ちだけで」
どうやら俺が彼女へ贈るプレゼントは、センスがズレているらしい。
中学生の頃にあげたアクセサリーは、付けているのを見たことがないまま、十年。
何が欲しいか訊いても「気持ちだけで充分だよ」と言う。
「何も買わなくていいとか、羨ましい」と友人に言われたが、意味がわからない。
「なぁ、本当に何もいらねーの?」
「うん。気持ちだけで」
「そういうわけにもいかないっつーか」
俺は食い下がった。
今年こそ、ちゃんとしたプレゼントを贈りたい。
「じゃあ、当日は朝から夜までずっと一緒にいて」
「そんなことでいいのか」
「うん」
ふたりで一緒に過ごす時間が、どんなに尊いものか。
それがわかるのは、遠距離恋愛せざるを得ない状況になってからだった。
────あなたへの贈り物
「私の場所は私が決める」
見た目のせいか、あいつは誤解されやすい。
小学生の頃は怖がられていたし、中学生の頃は不良っぽい先輩に絡まれていた。
しかも負けん気が強くて口が悪く、それなりに腕力もあったものだから、反撃してしまって……噂通りの不良だと噂されてしまうし。
「俺に近づくなって言ってるだろ」
あいつが私を突き放す時の言葉。
縋るような目で言われても、ねぇ……
物心つく前からの付き合いなのだ。
こいつが誰よりも寂しがりやなのを、私は誰よりも知っている。
「俺と一緒にいたら、お前も悪く言われるだろ」
だから何だというのだ。
私のことをちゃんと見もしない人からの評判なんて、くだらない。
誰に何を言われても、私はこいつの側にいる。
私の場所は、私が決める。
今までも、これからもずっと。
────羅針盤
「叱られるかな」
ふとした時に、思ってしまう。
もしも今、彼女が生きていたらって。
今の私を見たら、なんて言うだろうって。
彼女は純粋過ぎる子で、揶揄ったことや、人のことを悪く言ったことが一度も無かった。
だけど、今の私を見たら、流石に何か言うのではないだろうか。
それくらい、酷い暮らしをしている。
暗い部屋の中、電気も点けず、液晶画面に齧り付く昼夜逆転した日々。
外に出るのは、月に数回。
明日こそ、明日こそやめなきゃと思って、少しずつ活動時間をズラしているけど……
このペースでいくと、一般人に戻るのに何年かかるだろう。
もしも今、彼女が生きていたら……
私のこの生活を見て、どう思うだろう。
流石に叱られるかな。
それとも「頑張ってるね」って言ってくれるかな。
────明日に向かって歩く、でも