小絲さなこ

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1/9/2025, 7:37:14 AM


「いい雰囲気を壊す方法」


ひと昔、いや、ふた昔だったら、電話が鳴って良い雰囲気の男女に邪魔が入っていた。
今や連絡のほとんどがSNS。

「うーん……どうやってふたりの邪魔をするか」

唸り声をあげて頭を抱える。

「なに物騒なこと考えてるの」

同棲中の彼女が俺の顔を覗き込んだ。

「いや、今描いてる漫画の……このふたりのことなんだけど……」

見つめ合うふたりの顔が近づいて……という、いい雰囲気のシーン。そこに邪魔が入るという、恋愛ものでは定番の展開。
イマドキの不自然ではない邪魔とは何か。それを考えているのだ。

「会社からの電話っていうのも、最近は使えないしね」
「そうなんだよ。こんなことならふたりの会社をブラックにしておけばよかった」
「通知を鳴らしまくる、とか?」
「いや、そんなウザいこと今時の若者しないだろう。やはりここは親からの電話とか」
「親もSNS使ってる世代じゃない?うちの母親、私より使ってるし」
「だよなぁ……もう、ばあちゃんからの電話にするか」

あぁ、人の恋路の邪魔は難しい。


────Ring Ring...

1/8/2025, 7:56:09 AM

「俺の女神さま」

チャンスの女神は前髪だけと言うけれど、俺の女神は俺の近くをぐるぐる二周していた。

一度、通り過ぎてからその存在に気がついて、もっと周りを見ていれば、と後悔。
それから しばらくして、もう一度現れたので、すかさず捕獲。

「もう、いきなり何!」

腕の中で女神がジタバタともがいている。

「急に抱きつくとか、痴漢と思うじゃない!」

睨みつけてくる女神を無視して、彼女の肩に頭を乗せた。

「なに。これから部活じゃないの?」

「うん。今日、役を決めるオーディションだから、パワーとチャンスをチャージしようと思って」

彼女のため息が聞こえ、ぽんぽん、と頭を撫でられる。

「ま、テキトーに頑張って」


彼女はいつも、俺の心を平穏にしてくれる女神だ。



────追い風

1/7/2025, 8:36:35 AM

「置いて行ったりしないから」



よちよち歩きしていた頃から一緒にいたから、今さら離れるなんて思わなかった。

「泣き過ぎ!」

そう言う彼女も、今にも泣き出しそうだ。

「だ、だってさぁ……」
「もー。なんであんたが泣くわけぇ……」
「うう……情けねー、俺……」
「まぁ、今さらだけどね」
「……うう」

志望校に合格した彼女にお祝いの言葉を言おうとしたら、涙が溢れて止まらなくなってしまった。
物心つく前から一緒にいるから、今まで散々みっともない姿を晒してきたが……

「たった四年じゃないの」
「四年もだぞ!」

県外の大学への進学が決まった彼女と、県内の大学を志望する俺。
初めて離れ離れになる。

俺は将来やりたいことが定まっていない。大卒というステータスを得るためだけに大学に行こうとしている。
それに対して、彼女には夢がある。真っ直ぐにその夢を追う彼女に対して、置いていかれてしまうのではないかと不安なのだ。

「大丈夫、置いて行ったりしないから」

彼女の唇が頬に触れる。

「私だって、ずっと一緒にいたいんだよ」


眉を下げて微笑む彼女の頬を、一筋の涙が流れた。


────君と一緒に

1/6/2025, 8:14:21 AM


「新年は、眩しい」


朝食と昼食を兼ねた、お雑煮とおせち。
二年参りしたけれど、別のところに初詣に行きたい気分になった。

カーテンを開けると澄んだ青空。
この辺りの冬は、どんよりとした日が多い。
元日だということもあって、清々しい気分が増しているのかもしれない。

正午過ぎに家を出ると、予想していたよりも空気が冷たく感じられた。

雲ひとつない空。
冬の澄んだ空気。
雪を冠る山。

新年は、眩しい。


諦められなかった恋を断ち切る──昨日までは何故か出来なかった。出来ないと思っていた。
でも、今は……

「新しい恋、してもいいかも……」






────冬晴れ

1/5/2025, 8:26:03 AM

「禁じ手だと、わかっていても」



『婚活で会う人にはね、あなたにとっての幸せって何ですかって訊くようにしていたの』

三年前に結婚し、現在育児中の友人の台詞を思い出す。
この言葉を聞いた当時はまだ、自分が婚活するなんて思ってもいなかった。


「君にとっての幸せって、どういうものだと思う?」

目の前にいるのは、マッチングアプリで知り合った、初めて対面する男性。

「あなたはどうなんです?」

質問に質問返しは禁じ手だけど、出方を見たい。

私の回答で今後の展開が決まるなら尚更。


初対面で一番最初に訊くのは、合理的過ぎやしませんかねぇ……と思いながら。



────幸せとは

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