「いい雰囲気を壊す方法」
ひと昔、いや、ふた昔だったら、電話が鳴って良い雰囲気の男女に邪魔が入っていた。
今や連絡のほとんどがSNS。
「うーん……どうやってふたりの邪魔をするか」
唸り声をあげて頭を抱える。
「なに物騒なこと考えてるの」
同棲中の彼女が俺の顔を覗き込んだ。
「いや、今描いてる漫画の……このふたりのことなんだけど……」
見つめ合うふたりの顔が近づいて……という、いい雰囲気のシーン。そこに邪魔が入るという、恋愛ものでは定番の展開。
イマドキの不自然ではない邪魔とは何か。それを考えているのだ。
「会社からの電話っていうのも、最近は使えないしね」
「そうなんだよ。こんなことならふたりの会社をブラックにしておけばよかった」
「通知を鳴らしまくる、とか?」
「いや、そんなウザいこと今時の若者しないだろう。やはりここは親からの電話とか」
「親もSNS使ってる世代じゃない?うちの母親、私より使ってるし」
「だよなぁ……もう、ばあちゃんからの電話にするか」
あぁ、人の恋路の邪魔は難しい。
────Ring Ring...
「俺の女神さま」
チャンスの女神は前髪だけと言うけれど、俺の女神は俺の近くをぐるぐる二周していた。
一度、通り過ぎてからその存在に気がついて、もっと周りを見ていれば、と後悔。
それから しばらくして、もう一度現れたので、すかさず捕獲。
「もう、いきなり何!」
腕の中で女神がジタバタともがいている。
「急に抱きつくとか、痴漢と思うじゃない!」
睨みつけてくる女神を無視して、彼女の肩に頭を乗せた。
「なに。これから部活じゃないの?」
「うん。今日、役を決めるオーディションだから、パワーとチャンスをチャージしようと思って」
彼女のため息が聞こえ、ぽんぽん、と頭を撫でられる。
「ま、テキトーに頑張って」
彼女はいつも、俺の心を平穏にしてくれる女神だ。
────追い風
「置いて行ったりしないから」
よちよち歩きしていた頃から一緒にいたから、今さら離れるなんて思わなかった。
「泣き過ぎ!」
そう言う彼女も、今にも泣き出しそうだ。
「だ、だってさぁ……」
「もー。なんであんたが泣くわけぇ……」
「うう……情けねー、俺……」
「まぁ、今さらだけどね」
「……うう」
志望校に合格した彼女にお祝いの言葉を言おうとしたら、涙が溢れて止まらなくなってしまった。
物心つく前から一緒にいるから、今まで散々みっともない姿を晒してきたが……
「たった四年じゃないの」
「四年もだぞ!」
県外の大学への進学が決まった彼女と、県内の大学を志望する俺。
初めて離れ離れになる。
俺は将来やりたいことが定まっていない。大卒というステータスを得るためだけに大学に行こうとしている。
それに対して、彼女には夢がある。真っ直ぐにその夢を追う彼女に対して、置いていかれてしまうのではないかと不安なのだ。
「大丈夫、置いて行ったりしないから」
彼女の唇が頬に触れる。
「私だって、ずっと一緒にいたいんだよ」
眉を下げて微笑む彼女の頬を、一筋の涙が流れた。
────君と一緒に
「新年は、眩しい」
朝食と昼食を兼ねた、お雑煮とおせち。
二年参りしたけれど、別のところに初詣に行きたい気分になった。
カーテンを開けると澄んだ青空。
この辺りの冬は、どんよりとした日が多い。
元日だということもあって、清々しい気分が増しているのかもしれない。
正午過ぎに家を出ると、予想していたよりも空気が冷たく感じられた。
雲ひとつない空。
冬の澄んだ空気。
雪を冠る山。
新年は、眩しい。
諦められなかった恋を断ち切る──昨日までは何故か出来なかった。出来ないと思っていた。
でも、今は……
「新しい恋、してもいいかも……」
────冬晴れ
「禁じ手だと、わかっていても」
『婚活で会う人にはね、あなたにとっての幸せって何ですかって訊くようにしていたの』
三年前に結婚し、現在育児中の友人の台詞を思い出す。
この言葉を聞いた当時はまだ、自分が婚活するなんて思ってもいなかった。
「君にとっての幸せって、どういうものだと思う?」
目の前にいるのは、マッチングアプリで知り合った、初めて対面する男性。
「あなたはどうなんです?」
質問に質問返しは禁じ手だけど、出方を見たい。
私の回答で今後の展開が決まるなら尚更。
初対面で一番最初に訊くのは、合理的過ぎやしませんかねぇ……と思いながら。
────幸せとは