小絲さなこ

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12/3/2024, 7:36:47 AM



「もっと早くに気付いていたら」


「告白……しようかと思って」
彼女はそう言ってマフラーの先を弄んだ。

「そっか……」
ため息のような相槌が白い。
ついにこの日が来てしまった。

「うまくいくことを祈ってるよ」
口ではそう言うけど、半分くらいしか祈ってない。
いや、ちっとも祈っていない。




「ねぇ見て」

空を見上げると、茜色と紺色のグラデーション。

「綺麗だな」

彼女の横顔を盗み見る。
もしかしたら、ふたりで下校するのはこれで最後になってしまうかもそれない。



好きならば、彼女の幸せを祈るべきだ。


うまくいかなければいい。
そうすれば、これからもずっと──


ふたつの思考に挟まれる。
もっと早く自分の気持ちに気付いていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。


彼女の頭に手を乗せる。
こんなことをするのは、これで最後かもしれない。

「うまくいくといいな」

照れくさそうに「ありがとう」と言う笑顔に、鼻の奥が痛くなった。



────光と闇の狭間で

12/2/2024, 8:01:49 AM

「幼馴染のあいつ」



「付き合ってないなんて、絶対嘘だろ……」

本当のことだ。
俺とあいつは彼氏彼女の関係ではない。

「お前ら距離感おかしい!」

どのへんがおかしいんだ?
なんだよ、その呆れたような顔は。

「この年で異性の幼馴染とそんな仲良いとか、絶対認めない!」

いや、認めないって何だよ。
もしかして、お前あいつのこと……
なんだよ、そんなに否定することないだろ。馬に蹴られたくない?
いやいや、だーかーらー!
俺とあいつはそういうんじゃねぇって。


「じゃあさ、例えば他の男……そうだな、女子たちが騒いでるサッカー部のエースのイケメンいるだろ。そいつがあの子に告ってたらどう思う?」

どうって……


そんなの、あいつが決めることだし……

「例えば、の話だって!」
「お前、今自分がどんな顔してるか教えてやろうか。親の仇見るような目ぇしてるぞ」

そんなの、鏡がないからわかるわけないだろ。


────距離

12/1/2024, 7:40:01 AM

「これが最後」


貴方と会うのはこれが最後。
そう思いながら過ごす一日は、何もかもが輝いて見えた。

最後なのに、また会うみたいな挨拶をして、背を向け歩く。

振り向かない。
絶対に、振り向かない。
名を呼ばれても、肩を掴まれても。

泣き顔なんて、絶対に見せたくないのに。


いつも貴方は私のみっともない姿を見ようとする。
そのくせ私には格好悪いところを一切見せてくれない。

言わないで。
何も言わないで。

貴方にとっては慰める言葉かもしれない。
でも私にとっては、なによりも残酷な言葉。

貴方と私は今日が最後。
そのはずなのに……

一番綺麗に終わりたい。
そんなささやかな願いすら、貴方は叶えてくれない。


────泣かないで

11/30/2024, 6:48:44 AM

「落葉する巨木」



「あーあ。全部色付かないまま落ちちゃったか」

せっかくここまで来たのに──余計な一言は口の中だけで呟く。
はらはらと落ちていく黄緑色の葉。
地面を覆い尽くしているそれらを踏みながら、彼とふたり、巨木の周りを歩く。

「今年の秋は紅葉が遅かったね」

いつまでも暑かったせいだ。
温暖化は春夏秋冬の秋を削り取ろうとしているかのよう。

「このまま温暖化が進んだら、どうなるんだろうな。来年もこんな感じだったら……そのうち、秋が無くなるかもしれん」

彼はそう言って巨木を見上げた。
強い風が吹き、枝がわさわさと揺れて葉を落としていく。


「そうだね」

来年はこの木の紅葉を見ることが出来るだろうか。
その頃、私たちふたりはどうなっているのだろうか。
まだ一緒にいるのか、それぞれ別の道を歩んでいるのか。



いつだって私の未来は白紙で、彼が持ってきた具材で夢を描いてきた。

これからもずっと、このまま彼を頼っていて良いのだろうか。


「来年はきっと大丈夫だよ。そう信じよう」

そう言って彼は私の手を握った。
いつだって彼は私より温かい。手も、顔も、体も、心も全部。


ひんやりとした風に乗って遠くから聞こえてくる、童謡『雪』
灯油の移動販売車だ。

秋はもう、終わり。



────冬のはじまり

11/29/2024, 3:24:07 AM

「契約更新」

貴方と私の関係は契約で結ばれた期間限定の恋人。
私は多額の報酬が欲しかった。それだけのはずだったのに。


普段から恋人っぽく振る舞えば違和感がないから。そんな貴方の提案は、私の心を掻き乱していった。

貴方の仕草や一言一句に胸が痛くなったり、あたたかくなること。
それが何なのか、私は気付かないふりを続けた。


どちらかが、恋愛感情を抱いてしまったら、即契約解除。
少しでも貴方に気があると思われてはいけない。

眠れない夜もあったし、浴室で泣いたこともあった。
そんなドラマのような生活も、もうすぐ終わる。


そう思っていたのに……

「契約内容の変更と期間延長をしてもいいだろうか」


終わってほしい関係は、まだまだ続く。



────終わらせないで

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