小絲さなこ

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「落葉する巨木」



「あーあ。全部色付かないまま落ちちゃったか」

せっかくここまで来たのに──余計な一言は口の中だけで呟く。
はらはらと落ちていく黄緑色の葉。
地面を覆い尽くしているそれらを踏みながら、彼とふたり、巨木の周りを歩く。

「今年の秋は紅葉が遅かったね」

いつまでも暑かったせいだ。
温暖化は春夏秋冬の秋を削り取ろうとしているかのよう。

「このまま温暖化が進んだら、どうなるんだろうな。来年もこんな感じだったら……そのうち、秋が無くなるかもしれん」

彼はそう言って巨木を見上げた。
強い風が吹き、枝がわさわさと揺れて葉を落としていく。


「そうだね」

来年はこの木の紅葉を見ることが出来るだろうか。
その頃、私たちふたりはどうなっているのだろうか。
まだ一緒にいるのか、それぞれ別の道を歩んでいるのか。



いつだって私の未来は白紙で、彼が持ってきた具材で夢を描いてきた。

これからもずっと、このまま彼を頼っていて良いのだろうか。


「来年はきっと大丈夫だよ。そう信じよう」

そう言って彼は私の手を握った。
いつだって彼は私より温かい。手も、顔も、体も、心も全部。


ひんやりとした風に乗って遠くから聞こえてくる、童謡『雪』
灯油の移動販売車だ。

秋はもう、終わり。



────冬のはじまり

11/30/2024, 6:48:44 AM