「重要なことほど人には言えない」
迷っていることも、悩んでいることも、重要なものほど人には言えない。
話したくないわけではない。
話したいとすら思わないのだ。
相談してくれないのは寂しいだなんて言われても、困る。
他の人からの色々な意見は参考になるだろうけど、それを得るためには一から十まですべて説明しなくてはならない。
正直、それが面倒なのもある。
でもそれを言ったら角が立ちまくりだろう。
だから、どうでもいいことを訊くことにした。
それはランチのメニューであったり、デザートのケーキはどれにするかだったり、実家へのお土産だったり……
本当に迷っていることや、悩んでいることは、言えないし、言わない。
重要なことほど、私は私自身にしか訊かない。
人の意見は参考になるかもしれないけど、別の意味で私の本当の気持ちがわからなくなるような気がする。
他の人がどう思うのかではなくて、私が本当に望む選択をしたい。
だから私の選択はいつも事後報告なのだ。
────どうすればいいの?
「あの子とあの子がくれた言葉すべて」
宝物の価値は自分にしかわからない。
カッコイイ缶は、いつだったか誰かにもらったというお土産が入っていたもの。
その中に入っているものを、ひとつひとつ出してみる。
綺麗な色の石。これはあの子と拾ったものだ。
ミニカーはタイヤがひとつ外れている。気に入っていて、毎日毎日持ち歩いていたのを覚えてる。
ぬいぐるみの洋服。しかもスカートだけ。意味がわからない。
怪獣のおもちゃは尻尾が取れている。たしか、退治するときに放り投げたんだ。子供って残酷だな。
あの頃俺が好きだったもの。
そして、あの子がくれたものは、なんだって宝物だった。
でも本当に入れたかったものは、ここには入れていない。
いや、入らなかったのだ。
────宝物
「アロマキャンドルは好きになれない」
透明のパッケージから出さなくても甘ったるい匂いを放っているアロマキャンドル。
私の誕生日に彼女がくれたもの。
くどい程の甘い香り。
だけどきっと、好きな人は好きな香りなのだろう。
そう、私の元カレとかね。
私には甘すぎる薔薇のような香りは、彼女そのもの。
私には似合わない。
一生、身に纏うことはない。
彼女が私にプレゼントしてくれたものは、何ひとつ私の趣味に合わなかった。
それなのに、男の趣味は同じだったのね。
見抜けなかった私がバカだった。それだけ。
好みの男を手に入れるためならどんな手段でも使うなんて、そんな人が現実にいるとは思わなかった。
狙った男を手に入れるため、その男の彼女と友達になるなんて、正気の沙汰とは思えない。
彼女がいつも纏っていた甘さしかない香り。
それによく似ている、ピンクのアロマキャンドル。
絶対に使わない。
でも、棄ててしまうのもなんだか悔しい。
物に罪はないとはいうけど、私は一生、アロマキャンドルは好きになれない。
────キャンドル
「物心つく前の」
「これ、どういう状況?」
「さあ?」
「絵面は面白いけど、これは使えないね」
今選んでいるのは、結婚披露宴で流す、ふたりのヒストリー的な動画の素材。おもしろエピソード集のための素材ではない。
「でも気になる……」
「母さんに訊いてみるか」
アルバムに貼られている一枚の写真をスマホで撮影して実家の母にメッセージを送信。
物心つく前からの付き合いだから、それはもう数え切れない程のエピソードが俺たちふたりにはある。
自分たちでは覚えていない頃のこと。
ともだちってなんなのかわからないまま仲良しだった頃のこと。
男女関係ない友達だと信じていた頃のこと。
幼馴染から彼氏彼女の関係になった頃のあれこれ。
色々あったけど、俺たちはもうすぐ夫婦に──家族になる。
「返信きた。なんか、アニメの真似してたらしい」
「アニメってなんの……」
「わからん」
そしていつか、俺たちも『物心つく前のエピソード』を伝えていくのだろう。
────たくさんの想い出
「一番の楽しみ」
「オープン日未定……」
スマホでスキー場の公式SNSを見ている彼女が肩を落としため息をついている。
「温暖化だからなぁ……」
「ううう……」
唸る彼女の肩を叩くが、ぺしりと払い除けられてしまった。
「あーあ。私の冬の楽しみが……」
テーブルに突っ伏して呟く彼女。
「冬の楽しみはスノボだけじゃないだろ」
「……スノボが一番だもん」
俺の彼女は三度の飯よりスノボが好きなのだ。
俺はウインタースボーツの類は一切しないので、冬季の休日は自然と別行動になる。
「もういっそ雪山行かずに俺と一緒に炬燵で読書しよーぜ!」
わざと明るく誘ってみるも、キッと睨まれた。
八割くらい本気だったのになぁ……
────冬になったら