小絲さなこ

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10/5/2024, 4:13:24 PM

「星よりも月よりも」


片手で足りるほどの星しか見えない街で育ったからだと言い訳をする。
満天の星空を見ても、私にはどれが何座なのかわからない。

「やっぱり、君は星に興味が無いか」

寂しそうな彼の言葉。
思わず足元に視線を落とす。
「あれが秋の四辺形だよ」と言われても、どれなのかまったくわからない。
興味が無いと言われても仕方がない。


正直なところ、雲が空を覆っていない限り、どんな場所でも見ることが出来る月の方が好きだ。
こんなこと、決して言わないし、言うつもりもないけど。


「星占いは好きなのになぁ」

追い討ちをかける彼は、ホロスコープのことをまったく知らない。

「それとこれとは別」

そう言って、私はため息をついた。
少し冷えてきた気がする。

空ばかり見てないで、こっち向いてよ。



────星座

10/5/2024, 3:06:26 AM

「ふたりきりのフォークダンス」



文化祭というものには、ジンクスがつきものだ。
後夜祭で花火やフォークダンスをする学校なら尚更。
花火をふたりきりで見ると結ばれる、だとか。
フォークダンスで手を繋いだ人とは深い仲になる、だとか。
フォークダンスをふたりきりで踊ると結婚する、だとか。
まぁ、そんなありがちなジンクスが、我が校にもあるわけだ。

「ていうかさー、花火をふたりきりで見ること自体、脈アリってことじゃね?」
「まぁね」


今、俺は彼女と教室に向かっている。
最後の文化祭である今年、ふたりきりで花火を見ようと誘ったのだ。

ずっと、ずっと保育園児の頃から好きだった女の子。
今も変わらず俺の側にいてくれるなんて、これを奇跡や運命と言わずして何と言うのだろう。

一昨年は照れて誘うことが出来なかった。
昨年は色々と邪魔が入り、花火を見ることは出来なかったが、その代わりお互いの気持ちが同じだとわかったから結果オーライだ。

ちょうど教室に着いたそのとき、校庭からフォークダンスの開始を告げるアナウンスが聞こえてきた。

「ちょっと早かったんじゃない?」

花火は後夜祭の最後だ。

「いや、ちょうどいい」

そう言って、跪く。
目を見開く彼女に、手を差し出した。



────踊りませんか?

10/3/2024, 11:20:49 AM

「流行りの物語のように」


出会うのが遅かったね。
あと数年早かったら、あなたを選んでいたかもしれないのに。

あの人を選んだことを後悔してないし、それで良かったと思っているけど、あの人の気持ちとあなたへの感情はまったく別物だということは、否定できない事実。

輪廻転生が本当にあるのだとしたら、来世でもまた会えるだろうか。
あの人とあなた。
来世の私はどちらを選ぶだろうか。

こんなことを思っていることさえも、あなたに伝えるのは赦されない。
どうか、今世ではこのまま他人のままでいてほしい。

生まれ変わっても、私はあなたを見つけてみせる。

だから、どうか今世ではあなたを愛せないことを赦して。

いえ、赦さなくてもいい。
この罪は、そのまま背負って来世へ持っていくから。



────巡り会えたら

10/3/2024, 3:41:25 AM

「雨宿りの先に」


出会いが奇跡ならば、結ばれることは運命だと、ある人は言った。
それならば、結ばれたふたりが別々の道を歩むことは、何と言うのだろう。


突然降り出した雨。
駆け込んだ先で、まさか彼女と再会するなんて、ツイてるとか、そういうレベルじゃない。

だが、色々と話しかけても彼女はこちらを見ようとしない。

やはりまだ怒っているのだろう。
どの面下げて話しかけているんだと思っているに違いない。
確かに、悪いのは俺の方だ。


「君と別れて、死ぬほど後悔したんだ」

ぴくり。
彼女の肩が跳ねた。

この機会を逃したくない。
今すぐここで土下座しろと言われたら、してみせる。

彼女の名を呼ぶ。
もう一度、ちゃんと顔を見せてほしい。
泣きそうになっているのを堪えていることを、指摘したら、彼女は嫌がるだろう。
だけど、それが彼女の視線をこちらに向けさせるのに効果的だということを知っている。

振り向いた彼女の顔が歪む。
今度こそ、間違えない。
だから、どうか────



────奇跡をもう一度

10/2/2024, 1:49:15 AM


「君の表情が見えなくても」


太陽が沈みかけて濃い紺色の空。
雲の隙間から漏れる光。
山の上に建つ電波塔のシルエット。

まるで異世界のような風景を見たくて、車で山道を昇る。
日本で一番標高の高い場所にある道の駅。
駐車場に着く頃には、だいぶ陽が傾いていた。

「結構、人が多いね」

標高二千メートルからの夜景でも見るためなのか、満天の星空を見るためなのか、若い男女が多い気がする。
異世界めいた画像を撮りたいからと言う彼女みたいな人は少数派かもしれない、などと思いながら木道を歩く。

どんどん暗くなっていき、そろそろ携帯ライトを用意しておいた方がいいだろうかと思い始めた頃、ふと顔を上げてみると、そこには『壮観』という言葉が相応しい風景が広がっていた。

「これこれ。この風景よ」

彼女はそう言ってカメラを取り出している。
互いの表情は、もう見えないはずだ。
それなのに、彼女がどんな表情をしているのか、わかる。
夢中でシャッターを切る彼女にカメラを向けた。


────たそがれ

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