小絲さなこ

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7/27/2024, 3:29:47 PM

「お告げ」



私の言動には、明確な理由はない。

なんとなくやりたくなったから──というのは、
理由として認められないらしい。


「いや、そんなわけないだろう」
「なんとなくなんて……志望動機どうするの」

それについては、インターネットで色々と検索して参考にするつもり。

「そんなのバレるだろ。自分の言葉で書かないと」

ランチを何にするかという小さなことから、進路の選択まで、すべて「なんとなく」という直感で過ごしていた。

なんとなく、直感で。
そういう風に人生の選択をしていくのは、そんなにいけないことなのだろうか。
何もしないより良いと思うのだけど。


いっそ「神様のお告げで」と言ってしまおうか。





────神様が舞い降りてきて、こう言った。

7/27/2024, 8:03:35 AM

「提出締切は明日」


リビングのソファに寝転び、進路調査の紙を見つめる。

家業を継ぐヤツが羨ましい。
夢はでっかく少年よ大志を抱けとばかりにダメ元で記入したヤツもいる。
自分は、そこまで強気に出ようと思わない。いや、そもそもやりたいことが特にないのだが。


「本当に何もないの?」

そう言う姉は、やりたいことが無いというのを理解出来ないのではないだろうか。
姉は、幼い頃から看護師になりたいと言っていて、今は看護専門学校生だ。

「強いて言うなら……誰かの役に立つ仕事……かなぁ」
「逆に、何のためにもならない仕事なんてあるのかな。真っ当な仕事は全部誰かのためになってると思うけど」
「たしかに……あー、もうマジで何書いたらいいかわかんねー」
「だからさー、やりたいこと探すために大学進学希望、でもいいと思うんだよね」
「いいのか、そんなんで」
「大丈夫、大丈夫。大卒ならどんな職業目指すことになっても大抵なんとかなると思うよ。それにまだ高一だしね」


適当な姉貴に唆されそうだ。

進路調査の提出締切は明日。



────誰かのためになるならば

7/25/2024, 2:06:37 PM

「貴方は私に呪いをかけた」



どんなに美しく立派な翼を持っていても、飛ぼうという意志がなければ飛ぶことはできない。

だから、僕は君に暗示をかけた。
君のその翼は飛ぶものではなく、僕に見せるための飾りものなのだと。

それだけでは安心できないからと、僕は君を脅した。
空へ憧れを抱かないように。
外の世界は怖いのだと。



貴方が私を他の人の目に触れないようにしていることは、昔から気がついていた。

他の誰かと仲良くしないように。
ふたりだけの世界を作りたいと、私が思うように。

貴方は私に呪いをかけたのだ。
君は飛べない鳥なのだと。

貴方の思い通りになっていく私。

それで良い。

何処にも行かないようにしたい。
他の人の目に触れないようにしたい。

貴方にそう思われることが、どんなに嬉しいか、貴方は知らないでしょう。


呪いなどかけずとも、私は飛べない。

貴方の望みは、私を閉じ込めておくこと。
私はそれに悦びを感じているのだから。



────鳥かご

7/24/2024, 4:35:23 PM

「友情を終わらせるとき」


男女の友情は成立するか否か。

お互い恋愛感情を持たなければ、友人関係は維持出来るだろう。
もしも、どちらかが友情以上の感情を抱き、相手にそれを気付かれてしまったら、その瞬間から関係は崩れていく。

そんなこと、誰かに言われなくてもわかっていた。

こいつに恋愛感情を抱くなんてありえない。
そう思ったときには、既に手遅れだということも。


自分の気持ちに気付いたのが先なのか、君の気持ちに気付いたのが先なのか、どちらなのかわからない。
だが、確実に言えることは、お互い友情以上の感情を相手に抱いているということ。
そして、君はまだ俺の気持ちに気付いていない、ということ。


さて、どうやってこの関係を崩していこうか。



────友情

7/23/2024, 10:18:43 PM

「高校デビュー」


君は知らないだろうけど、僕はずっと君を見ていた。

同じ高校に進学することに密かに喜んでいたけど、まさか君が、いわゆる高校デビューするとは。

今どき珍しい、ぴっちり編み込まれた左右の長い三つ編み。ヤボったくて長めの前髪。変なフレームの大きな眼鏡。そんな格好をしていても、よく見るととんでもない美少女──それが中学時代の君。

今の君は、髪を鎖骨の辺りの長さに切り、明るい茶色に染め、前髪も流行りの軽やかなスタイル。眼鏡はやめ、カラーコンタクトに。ぱっと見て、誰がどう見ても美少女だ。


君は知らないだろうけど、僕はずっと君を見ていた。

クラスメイト、同じ学年の生徒、先輩……数多くの男を虜にしていく君。

君が遠くに行ってしまったような気がする。
だけど、君が幸せになるなら……



高校デビューなんてしようとも思わなった僕は、ただ、中学時代と同じように陰で君を見つめ続ける。

君は知らないだろうけど、僕は君が陰気で地味眼鏡だと揶揄われていた頃から、ずっと君だけを見ていた。

そして、それはきっとこれからもずっと。



────花咲いて

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