小絲さなこ

Open App
7/12/2024, 2:33:44 PM

「ほんとうの家族」



物心ついた頃、すでに親族がいなかったから、血の繋がりのある者同士の関係は、今でもよくわからない。
育ててくれた人たちは、本当の子供のように、優しく、時には厳しく接してくれていたけど、本当の親ではないことは、わかっていたのだ。


「あー、やっぱりそうだったのか」

成人したから、と本当のことを告げられた。
妙に冷静な自分に思わず笑いそうになる。

「気付いてたのか」
「んー……なんとなく……」

たぶん、本能的なものなのだろう。
あと、顔が似てない、というのもある。


「でも、父さんと母さんが、俺の両親であることは変わりないから」

心からそう思う。

「育ててくれて、ありがとう」



────これまでずっと

7/11/2024, 3:10:54 PM


「私たちのペース」


『よろしくお願いします』
『こちらこそよろしくお願いします』

そんなやりとりして、それっきり。
『ともだち』とアプリでは分類されているけど、違和感しかない。


だったら連絡先交換しないほうがいいのでは。
そう思うが、状況によっては交換せざるを得ないこともある。


「あー、LINEもうやめようかと思ってるんだ。なんかあんまり好きじゃなくて」

プライベートな場面でLINE交換しようと言われたときは、そう言うようにしている。

大抵「それでもいいから」と交換することになるのだけど。
そして『よろしくお願いします』でやり取りが終了。


「意味あるのかなぁ、これ……」
「そう思うなら、こっちからLINEすればいいじゃん」
「とくに用事ないもの」
「あー……うん……姉ちゃんそういう人だったわ」

妹は呆れたような顔をして、ソファに寝転んだ。

「彼氏とはLINEしてるんだよね?」
「してないけど」
「えええっ……じゃあ何で連絡取ってるの」

飛び起きる妹。
そんなに驚くこと?

「SMSメッセージだけど」
「い、いまどき?!」
「いいじゃんべつに」
「SMSだとスタンプないし、不便じゃない?」
「スタンプ選ぶ時間勿体ないじゃないの」



『よろしくお願いします』だけで止まってしまっている彼氏とのトーク画面を眺める。
これは単に、私たちの生活スタイルや会話のペースとLINEが合わなかっただけだ。


「えっと……あーうん、まぁ……二人がそれでいいなら外野がとやかく言うことじゃないか……」

妹は自分に言い聞かせるように呟き、再びソファに寝転んだ。



──── 一件のLINE

7/10/2024, 3:01:08 PM

「痛みは証」



恐ろしい夢を見ていたような気がする。
だが、夢の内容は思い出せない。

喉はカラカラに乾いていて、べたりと喉の奥に何かが張り付いているかのようだ。

室内の様子から、ここがどこなのかがわかる。
入院中の病院。割り当てられたベッドの上。

どうやら「最後の手術」は成功したようだ。
生きているのがその証。

まともな食事を摂れるようになるまでが辛いんだよなぁ……
前回の手術で辛かったことのひとつだ。

そして、今は痛み止めが効いているから喉の違和感だけで済んでいる。

手術そのものは頑張ったという自覚はない。
私は寝ていただけだから。
だが、戦いはこれから。

痛みは生きていることの証だと思えるようになるまで、戦いは続くのだ。



────目が覚めると

7/9/2024, 3:19:47 PM

「三割は多いのか少ないのか」




「うちの両親、バカップルなんじゃないかって、うっすらと思ってたけど……」


ため息をついてネット記事を見つめる。
『自分の常識は他人の非常識』とは言うが、まさかこんなことでそれを実感するとは。

とあるアンケート調査によると、夫婦で一緒にお風呂に入っているのは約三十四パーセントだという。
つまり、一緒にお風呂に入っていない人たちの方が圧倒的に多いのだ。


ことの発端はクラスメイトとの会話であった。
なにげなく、両親が一緒にお風呂に入ったときに起きたハプニングの話をした。
すると、そのハプニングそのものよりも、両親が一緒にお風呂に入っていることについて驚かれたのだ。


「うう……子供抜きで二人だけでデートする、っていうのも、他の家では、あまりやってないっぽいし」


これは、ひょっとしたら挨拶のキスを日常的にしている、というのも他のご家庭ではやっていない可能性が……


「調べないことにしよう……そうしよう……」


世の中には、きっと知らなくていいことがたくさんあるのだ。



────私の当たり前

7/8/2024, 2:28:21 PM

「星が拗ねる」



カーブを描きながら、バスは山道を一定の速度で、ぐるりぐるりと降る。

遠くに見える夜景。
月が見えない日。


「街が明るいと、お星さまは拗ねちゃうの」

懐かしいことを思い出した。
我が母は、なかなか可愛らしいことを言う人で、私はそんなことあるわけないと思いつつも、母に合わせていたものだ。


街の明かりは光の海のよう。
その海へ向かって走るバスが揺れる。




────街の明かり

Next