「ふたりだけの写真」
「あーそうかぁ、そうだよなぁ……」
「どうしたの、頭抱えて」
「いや、ほら、披露宴で流す映像で使う画像探してるんだけど」
「うん」
「俺たちの場合、友人関係だった期間があまりにも長いからその……」
「その?」
「恋人らしい写真が、ない……」
「みんなと撮った写真ならあるでしょ」
「あるけど、あるけどさぁ!」
「どうせみんな私たちのことわかってるから、いいんじゃない?」
「え……いいの……?」
そもそも、友人関係だった期間が二十年超えてしまった理由の大半は、そちらにあるのだ。今さら何を言っているのだろう。「やっとくっついたか」と共通の友人全員に言われたことを思い出してほしい。
「いいなら、いいけど……」とか「なんかなぁ」と呟いている彼を見つめる。
ぶつぶつ言っている暇があったら、使う画像選んでほしい。というか、言いたいことがあるならハッキリ言ってほしいのだが……
「じゃあ、今度の休みにどこか出掛けて撮る?」
私の提案に、ぱぁっと嬉しそうな顔をする彼。
愛いやつめ。
あー、私も大概だなぁ……
────友だちの思い出
「記憶の空」
子供の頃、自分が住む東京の空と、祖父母が住む田舎の空は違う空だと思っていた。
昼間は青い色の濃さが違うし、夜は星の数が違うから。
もしも都会の灯りが全て消えたら、どれくらいの星を見ることができるのだろう。
手を伸ばす。
片手で足りてしまう空の光の数。
祖父母の家からは、天の川も見えたのに。
今はもう無い祖父母の家の庭から見た空。
記憶はどんどん薄れていくのに、あの星空だけは覚えている。
それを忘れたくなくて、もっと多くの星を見たくて、私は辺鄙な場所を選んで旅に出る。
────星空
「あまやどり」
本来なら、出会うはずがなかった。
生まれた地域も、住む地域も、趣味も、なにもかも違うふたり。
なぜ、あのときこの街に来たのか。
面倒だからと旅行なんてしないのに。
しかも有名な場所でもなんでもない場所。
なぜ、あのときあの店に入ろうと思ったのか。
雨宿りできる場所なんて、他にもあったというのに。
雨ではないもので頬を濡らしていた君に声をかけてしまったのは、偶然なのかそれとも……
────神様だけが知っている
「茨の道」
「君が進みたいのは、茨の道だぞ」
あの人はそう言いつつも、その道を歩きやすいように整備してくれていた。
そのことに気がついたのは、だいぶあとになってからだったが。
「ここから先は、君の好きにすればいい」
そう言って背を向けたあの人を追いかけて、ずっと追いかけて、今も追いかけている。
あの人が天へ還っても、ずっと。
だから、あの人と同じように君の進む道を、茨の道から人がギリギリ歩けるくらいの道に整備している。まだ若い君には気付かれないように。
────この道の先に
「アルミシート」
雨戸がないこの部屋は、遮光カーテンをかけていてもカーテンレールの上から朝陽が差し込んでくる。
引っ越してきた当時は冬だったので気ならなかったが、日の出時刻が早まるにつれ、あまりの眩しさにアラームの設定時刻よりも早く目を覚ますようになってきたのだ。
「とはいえ、あまりお金はかけられないし……」
とりあえず、百均でアルミシートを購入し、カットしてカーテンレールの上にセットしてみる。
なかなか良いが、見た目があまり良くないのが難点。
「ま、彼氏もいないし。誰か泊まりに来るわけでもないし。いっか」
翌月、彼氏が出来ることを、この時の私はまだ知らない。
────日差し