「当たり前にあるもの」
未来ほど確かなものなど無いというのに、どうして信じてしまうのだろう。
手を振って、歩き出して、振り返る。
当たり前にあるもの。
それがどれほどの奇跡なのかを、失ったとき、失いそうになるときになって、初めて思い知るのだ。
絶対なんて無いというのに、信じられずにはいられない。
失うこと、消えること、裏切られること。
もしも、万が一、そんなことを想定していたら、きっと何も出来なくなるから。
だけどいつか、当たり前が当たり前ではなくなる日が来る。
その時に笑顔でいられたら良いと、今日もまた明日が当たり前に来ることを信じて手を振るんだ。
────また明日
「透明人間」
「透明人間になりたいって思ったことある?」
スマホを弄んでいる彼女が、画面から目を逸らさずに問いかけてきた。
「あー、あるある」
「ええ……なんで?」
俺の答えが意外だったようで、彼女は俺を見つめながらまばたきをしている。
「なんでって、そりゃ……なぁ……」
「だって、誰からも見えなくなるんだよ。嫌じゃんそんなの」
「だからいいんじゃないか」
「え?」
「あー、いや……」
思わず目を逸らす。
「……なんか、変なこと考えてない?」
「いやいや、変なことじゃないって。それに男ならだれでも一度は考えることだと思……」
「主語大きくない?」
あー、今すぐ透明人間になりてぇ……
────透明
「とてもリアルで長い夢」
こんなことってある?
あなたは、私が「こういう男の人がいいなぁ」って思っていた通りの人。
描いた絵から抜け出してきたような、そんな人。
あまりに理想通り過ぎて、怖くなる。
繋いだ手の感触も、抱きしめられる時のあたたかさも、たしかなものだ。
だけど、すべて夢なのではないか。
とても、とてもリアルな夢。
私のことを、理想の女性だとあなたは言う。
本当に、これはきっと夢だ。
とても、とても長い夢。
どうか、どうか、醒めないで。
現実の私が、何年も何十年も眠っているとしても……
────理想のあなた
「生まれ変わっても」
あの子を神様が連れて行ってしまったことを受け入れるようになるまで、十年。
なんであの子だったの。私だったらよかったのにと思わなくなるまで、十五年。
あの子のことを人に話せるようになるまで、二十年。
こんなに時間が経ってしまったら、生まれ変わる時代も違ってしまうのだろう。
今、もしも生まれ変わっても会えないかもしれない。
たまに夢に出てくるあの子は、制服姿のまま。
────突然の別れ
「キャンバス」
自分の感情を言葉にするのが苦手な私は、キャンバスに向かう。
一筆一筆、出逢った瞬間から今日までの想いを乗せていく。
他の誰かかが見てもわからない。
この絵に隠された、ひとつの恋。
私だけが、私のために描く。
この絵が完成するときには、きっと私は吹っ切れている気がする。
あの人が見てもきっとわからない。
この絵に込められた想いもメッセージも。
それでも構わない。
私だけが、この恋を忘れないように描いておきたい。
────恋物語