「生まれ変わっても」
あの子を神様が連れて行ってしまったことを受け入れるようになるまで、十年。
なんであの子だったの。私だったらよかったのにと思わなくなるまで、十五年。
あの子のことを人に話せるようになるまで、二十年。
こんなに時間が経ってしまったら、生まれ変わる時代も違ってしまうのだろう。
今、もしも生まれ変わっても会えないかもしれない。
たまに夢に出てくるあの子は、制服姿のまま。
────突然の別れ
「キャンバス」
自分の感情を言葉にするのが苦手な私は、キャンバスに向かう。
一筆一筆、出逢った瞬間から今日までの想いを乗せていく。
他の誰かかが見てもわからない。
この絵に隠された、ひとつの恋。
私だけが、私のために描く。
この絵が完成するときには、きっと私は吹っ切れている気がする。
あの人が見てもきっとわからない。
この絵に込められた想いもメッセージも。
それでも構わない。
私だけが、この恋を忘れないように描いておきたい。
────恋物語
「この世界でふたりきり」
多くの人が眠っている時間は落ち着く。
世界でたったひとり。
時計の秒針。
パソコンの稼働音。
キーボードを叩く音。
マウスをクリックする音。
時々聞こえてくる、暴走するバイクの音や救急車のサイレン。
多くの人が勉強したり仕事をしている時間に、雨戸を閉めた部屋で毛布をかぶっている私。
罪悪感に苛まれる昼間。
だけど、私は多くの人が眠っている時間に起きている。
背徳感と優越感の間。
こんな生活、もうやめるべきだとわかっているのに。
彼がログインした音に心臓が跳ねる。
この世界でふたりきりになる時間を手放す覚悟は、まだ出来ない。
────真夜中
「天にも昂る心地」
「俺、単純だからさ」
そう言って、君にキスを強請る。
一瞬、呆れたような表情をしつつも頬に口付けてくれる君は、いい彼女だ。
「今なら俺、なんだって出来る気がする。空も飛べるかも」
「やる気出たのはいいけど、危ないことはやめてね」
「しねーよ」
「はいはい、いいから続きしよ」
「キスの……?」
「な、なんでそうなるわけ?勉強にきまってるでしょ!」
「お、おう……」
もともと俺の成績はあまり良い方ではなかったが、ここ数ヶ月、成就した恋にうつつを抜かしてしまい……
その結果、今度の試験の結果次第では交際に反対すると母親に言われてしまったのだ。
「目指せ、学年一位!」
「目標、高過ぎじゃない?」
────愛があれば何でもできる?
「今さら気がつくなんて」
言葉にしなくてもわかっているはずだと、思っていた。
君が本当に欲しいものは何だったのか。
俺はいつも勘違いしていて、ズレたものを贈っていたみたいだ。
言葉にしなくても、君ならわかってると思っていた。
信じているから、信じてくれていると思うなんて。
信じているのなら、きちんとそれを伝えなくてはならない。
君が欲しかったのは、高価なものなんかじゃなかった。
こんな簡単なことに、君がいなくなってから気がつくなんて……
────後悔