「覚えてないから、ずっと続いてる」
君に恋したのは、いつなのかなんて、覚えていない。
物心ついた頃には、すでに隣にいて大切な存在だったから。
初めて君にときめいたのも、いつなのか覚えていない。
だけど、今でも毎日のように君にドキドキしている。
「はいはい、わかってるから」
君はそう言って笑う。
そりゃそうか。
俺たちの娘は、もう高校生になるんだし。
さすがに聞き飽きたのかもしれない。
俺は言い飽きてないんだけどな……
明日からはちょっと言い方を変えてみるか。
────初恋の日
「その手には乗らない」
「明日、この世界が終わります」
そんな報道されたとしたら、確実にフェイクニュース扱いされるだろう。
信じない人が多いなかで、じわじわと崩壊していく世界の映像が報道されていく。
それでもたぶん、多くの人たちは信じない。
自分の目の前でそれを見るまでは。
世界の終わりへのカウントダウンは、なんのためにするのだろう。
絶望から自暴自棄になり、一気に悪化していく治安。
崩壊していく人間社会の倫理観。
それらを一種のエンターテインメントとして扱いたいからだろうか。
なんて悪趣味。
そんなことになったら、絶対に取り乱さないし、嘆かない。
普段通りに生活する。
明日があると信じて、今日を終える。
明日が来ないと知っていても、未来があることを信じたままでいたいから。
────明日世界が終わるなら
「わかりあいたい」
知らなかった感情を知るのは、良いことなのだろうか。
知らなければ知らないで、別に困ることはないだろう。
ずっとそう思っていた。
君に出逢うまでは。
他人の気持ちなんて、百パーセントわかるはずがない。
だから、何を言っても無駄だと諦めていた。
君に出逢うまでは。
君のことを理解したい。
君にわかってほしい。
そんなことを思うようになるなんて。
────君と出逢って
「もう少し待って」
デジタル時計しか持っていないから、冷房も暖房もつけていない時期に部屋に響くのはひとり暮らしサイズの冷蔵庫の稼働する音。
時々、大通りの方からバイクが暴走する音が聞こえてくるくらい。
静かな空間は、苦手だ。
ひとりでいると、本当の願いや想い、心の声というものが聞こえてしまいそうで。
静かな空間は、苦手だ。
ふたりでいるとき、鼓動のはやさと激しさが聞こえてしまいそうで。
あともう少しだけ、自分にも君にも嘘をついていたい。
まだ、本当のことを認めてしまうのは怖い。
君への感情も。
────耳を澄ますと
「秘密じゃなくなるとき」
まだ、友達の誰にも知らせていない。
ただの幼馴染ではない関係になったこと。
まだ、お互いの家族すら知らない。
既に手を繋ぐ以上のことをしていること。
なんとなく恥ずかしいからと、誰にも言わずに半年。
ふたりの関係を隠すことは、なんだかイケナイことをしているみたいで、それはそれで悪くない。
だけど、このままずっと隠したままで本当にいいのかと思うようになってきた。
「ちゃんとした付き合いをしてるって、言っていいか?」
「んー、別にわざわざ言わなくてもいいでしょ」
面倒そうに言う君。
いや、たしかにめんどくさいけどさ。
「そうは言ってもなぁ……」
「ていうか、もうバレてるような気もする」
「マジかよ!早く言えよ、そういうことは!」
「えー……」
「なんつーか、将来的なこともあるし。真面目に、ちゃんと付き合ってるって、言いたいんだよ」
「…………」
「…………」
「……えっと……」
やべぇ、しくじったか?
「そ、そう……それなら、いいんじゃない?言っても……」
そう言って、君は顔を背けた。
そんな赤面するようなこと、俺言ったかなぁ……
────二人だけの秘密