「一番近くて、一番遠い」
家が隣で年も一歳違い。
まるで兄妹みたいだと、お互いの家族も言っていた。
おままごと、かいじゅうごっこ、かくれんぼ、ひみつきち、たんけんごっこ、ゲーム……
制服を着るようになるまで、いっしょに遊ぶのが当たり前だった。
部活、試験、生徒会、文化祭の準備……
ランドセルを背負っているあたしには、わからなかったことが増えていって、顔を合わせることも少なくなってしまった。
同じ制服を着て、同じ学校に一年遅れて通って、初めて気がついたんだ。
兄妹なんかじゃ嫌だということに。
だけど、あなたにとってのあたしは今でも「家族じゃないけど家族同然」の妹分。
隣に住んでいなければ、良かったのかな。
中学で初めて出会う、ただの先輩後輩だったら違ったのかな。
だけど、ずっと一緒に遊んでいた思い出は、なくしたくない。
たぶんきっと、一番近くて、一番遠い。
────誰よりも、ずっと
「重ねて」
物心つく前から一緒にいるふたり。
言葉にしなくてもわかりあえた。
年を重ねていくにつれ、言葉にしなくてはならないことが少しずつ見つかっていく。
隠し事も嘘も少しずつ増えていって、言えないことを言いたくても言えなくなっていった。
もつれた糸を解くために遠回り。
今までも、これからも、同じ気持ちでお互いを見ている。
今は、昔みたいに言葉にしなくてもわかることがあるんだ。
積み重ねた年月。
崩れることなくこのままずっと、ふたりは年を重ねていく。
────これからも、ずっと
「逃げる影」
夕方、長くなっていく影が怖かった。
そのまま伸びて自分から離れていってしまう気がして。
夜は別の世界への入り口が開く時間帯。
逃げた影は、こことは別の世界へと逃げてしまう。
そして影は私とそっくりな人間の姿になり、その別の世界で私になりすまして暮らすのだ。
そんなことを想像し、どうにかして影が伸びないようにしたけど、出来なかった。
下ばかり見ていた私には、夕焼けの記憶がない。
今は、影をどうにかしようとも思わないし、別の世界に行くのも構わないけど、なりすましは勘弁してほしいと思う。
そして、多少無理してでも夕焼けは見ている。
一度として同じ風景は無いのだということを、知ってしまったから。
────沈む夕日
「ブラックホール」
まるでブラックホールだ。
吸い寄せられてしまったが最後、どうなるかわからない。
だから、視線を逸らしたい。
だけど、君の瞳から逃れられない。
君の瞳にうつる俺は、狼狽えていたり、驚いていたり、泣きそうになっていたり、碌なもんじゃない。
これ以上、君のことを知りたくない。
だけど、君のことをもっと知りたい。
君の瞳の奥の、もっと奥を覗き込む。
唇に君の唇が押し当てられて、シャットダウン。
そして、そのまま堕ちていく。
────君の目を見つめると
「プロポーズ」
ギャップが激し過ぎると笑われるかもしれない。
意外だと笑われてしまうのは覚悟の上。
星空の下で永遠を誓いたいんだ。
満天の星空っていうのは、意外と難しい。
民家も宿泊施設もない場所を求め、車を走らせる。
ぐねぐねと山道を登っていく。
慣れてるように思われてたら、ちょっと嬉しい。
実は昼間に何回かひとりで来てる。
国道最高地点。
標高二千百七十二メートル。
天の川を見上げる君を見つめる。
言おうと思っていた決め台詞が消えていく。
シンプルな言葉になってしまったけど、何も言わず笑顔で頷いた君を抱きしめる。
────星空の下で