「バレバレ」
さりげなく、だが確実にあの子の隣をキープしているあいつ。
あの子もさりげなくあいつの近くにいるようにしている。
本人たちは誰にも気付かれないようにしているようだが、周囲にはバレバレだ。
そのくせ 本人たちはお互いの気持ちにまったく気が付いていない。
あの二人に余計なことをするヤツが現れないように目を光らせている我々のことも、気が付いていないんだろう。だが、これは気付かないでいい。
いい加減早くお互いの気持ちに気付いてくれないかな。
────何気ないふり
「せめて物語の世界だけでも」
「……てわけでさぁ、最近は最終回のネタバレチェックして内容と結末確認してから読んでるんだよね〜」
「ふぅん。今話題の『ネタバレ消費』みたいな感じ?」
「あー、せっかく見るなら最後まで安心して見たいから、とか、そういうタイパ的なやつでしょ?」
「そうそれ」
「ちょっと違うんだよね〜」
そう言って彼女は、いちご牛乳のパックのストローをくわえた。
考えながら、ちゅうちゅう飲む。
「だって、現実って結構キツイじゃん。せめて物語の中だけでも、平和なもの見たいっていうか。辛い幼少期とか、虐げられる展開、読むのキツくなってきてさ。妬みや争いは現実だけで充分だよ」
窓の外を見ながら言う彼女。
その視線の先にいる人は、彼女の想い人だ。
「なるほどねぇ」
「昔は、鬱展開とか、ざまぁとか好んで読んでたけど、最近はダメでさー、悪役も改心して最後はそれなりに幸せを掴むとか、そういう話に惹かれる今日この頃なわけよ」
「へぇ……」
「年かなぁ……」
彼女はそう言って、制服のリボンを直している。
「まぁ、来年成人だからね」
────ハッピーエンド
「その瞳は僕を暴く」
あの子と目が合うと、つい視線を逸らしてしまう。
僕のなかにある最大かつ最悪な秘密を見透かされる気がして、落ち着かない。
誰にも言えない。
好きになってはいけない人を想っていること。
彼女と彼の仲が壊れることを祈っていること。
あの子と彼女は親友。
だから、あの子はきっと彼女と彼の幸せを祈っている。
友達の彼女のことを好きになった男なんて、確実に警戒対象だ。
彼女とどうにかなろうなんて、思っていない。
でも、友達とその彼女の仲が壊れることを密かに祈る自分は最低だと思う。
もしかしたら、あの子は気づいているのではないか。
ほら、またあの子と目が合った。
吸い込まれそうな瞳に、僕の心はざわつく。
────見つめられると
「かわいいひと」
貴方は私のことを可愛い可愛いと言うけれど、私から見たら貴方の方が可愛い。
目が合っただけで嬉しそうに笑う。
手を繋いだらまるで子供みたいに、はしゃぐの。
それを、無意識にしているものだから、タチが悪いよ。
貴方は私のことを好き好き愛してるって言う。
それこそ所構わず言うから、ちょっと勘弁してほしい。
でも羨ましくもある。
私はそこまでオープンに好きだの愛してるだの言えないから。
素直過ぎて、可愛すぎるのよ、貴方は。
────My Heart
「ピース」
暑いのが苦手で寒さに強い君。
寒いのが苦手で暑いのが好きな俺。
いつもどこか楽観的な君と、起きるかどうかわからない事態を心配する俺。
君に憧れる俺と、俺を羨ましがる君。
好きなものも、得意なものも、正反対。
だけど、惹かれる。
ふたり足して二で割れば、ちょうどいいのに。
そう言って笑う君。
お互いに足りないものを補って、ちょうどよくなるために惹かれ合う。
そういう意味では、俺たちはパズルの隣り合ったピース。
ふたりが合わさることで、見えてくる絵柄があるかもしれない。
────ないものねだり