「君と味覚を共有したい」
本当は、甘いモノってあまり好きじゃない。
あんこもチョコも、クリームも。
だけど、君があまりにも美味しそうに食べるから、どんな味なんだろうって、気になって。
だから、君が食べたいと思ったものと同じものを注文するようにしたんだ。
そうしたら、意外と美味しかった。
俺が食わず嫌いしていたのか、それとも君と一緒だからか。
あんこたっぷりのどら焼き。
ホイップクリーム入りのあんぱん。
タヌキケーキ。
モンブランクレープ。
君は幸せそうに食べる。
それを見るだけで、こちらまで幸せになる。美味しく感じる。
────好きじゃないのに
「変わりやすい空模様」
あなたの言葉が私に与える影響を、あなたは知らないでしょう。
何気ない一言で、一喜一憂。
心が晴れやかになったり、暴風雨になることなんて、気付いていないでしょう。
あなたの一言は予測不可能。
雨雲レーダーに引っかからない低い雲のよう。
天気予報の便利なフレーズ「ところにより」
場所とタイミング次第で晴れたり雨や雪が降ったり。
山の麓の都市の天気予報でよく使われるフレーズ。
あなたは私のことを、山の天気みたいに気分が変わりやすいと言っている。
私の心を掻き乱しているのは、あなたの方なのに。
────ところにより雨
「君の笑顔を守りたい」
選ばれし者とか異能とか、そういうものに憧れていた。
普段は隠している特別な力で、可愛い女の子を守ったり、誰かを救ったり。
いわゆる中二病というやつだ。
だけど大人になるにつれ、そんな気持ちは無くてしまった。
あの頃の気持ちを思い出したのは、君に出会ったから。
だけど今の俺が欲しいものは、人間離れした身体能力や異能ではない。
特別な力なんていらない。
君の笑顔を守ることが出来れば、それだけでいいんだ。
────特別な存在
「当て馬にすらなれない」
はじめは「ちょっとかっこいいかも」だった。
思わず目で追う。
その視線の先に誰がいるかは、すぐに気付いた。
なんて地味な子。
単に幼馴染だから放っておけないだけでしょ。
あの子を見るみたいに、あたしを見て。
優しく見つめる先にいるあの子が羨ましい。
だけど彼の想いは実り、ふたりの間に強引に割って入らなかったことを後悔した。
「釣り合ってないよね」
陰であの子を悪く言う。
「あの子には勿体ないと思わない?」
彼にあんな地味で内気な子、似合わない。
そう言ったあたしに「あの子のこと、よく知らないから」と言うクラスメイト。
あたしもあの子のことは、よく知らない。
でも、そんなのどうでもいい。
あの子を悪く言う理由なんて、彼を独り占めしていることだけで充分。
そう思っていたのに。
彼女の悪評の出どころを彼に知られてしまうなんて、思わなかった。
自分の醜さを認められなかった私。
もうしないと誓っても、きっと赦してくれない。
なぜあんなことをしたのか。
いまさら後悔しても遅いのに。
────バカみたい
「愛の逃避行」
ホテルの窓から荒れ狂う海を見ている。
なぜ悪いことをした人って、ひと気のない土地へ逃げるのだろう。
木を隠すなら森の中って言うし、都会の方が見つかりにくいと思うけど。
「人の目が気になるからだろ」
窓から視線を逸らさずあなたは言う。
そういうもんかなぁ……
罪を犯したふたり。
時刻表と睨めっこしながら、電車を乗り継ぎ日本海を目指す。
追い詰められたふたりは、手を繋いだまま、荒れ狂う海へ……
「新婚旅行で心中する想像すんなよ」
────二人ぼっち