ひとの決意を翻させることは難しい。
正確には、烏滸がましい。
ひとは、決めきれていないから悩むし、相談する。
思案しているうちはいくらでも取り返しがつく。
ただ、ひと度決めてしまったものは、鋼の意志で取り組むべきであるし、それほどの意志を持たない状態は、まだ悩んでいるとも言える。
そこまでの決意を覆すには、意志を砕かねばならない。
そこまでの意志は、悩んだ時間と、そのひとの生来の熱意から成る。
つまり、そのひとのかけた時間と、そのひととなりを、
一度否定しなければならない。
否定は辛い。いつの日がその刃は自らに向く。
そんな言葉で、相手を傷付けねばならない。
だから、烏滸がましいと思うのだ。
そんなわけで、言うのは辛いし、いつの日か私の身にも
降りかかることは解っているが。
お願いだから、
君の命をそんなに容易く棄てないでくれないか。
お題「行かないで」
空は宇宙から見た地球の色と同じなのだろうか。
それとも、水の色を反射しているから青いのだろうか。
理科が得意だったら、答えも理知的に導き出せただろう。
雲一つない空を自由の証と捉えるか、
重力に捕われた私達の果てしない監獄と捉えるか、
きっとどちらも正しくて、解はない。
植物と陽光をいっぱいに浴びるのが好きなひとも居れば、
夏には入道雲を、冬には気分すらも押し潰すほどの
分厚い雲を足したほうが風情だと云うひとも居るだろう。
私なら幾許か太陽を傾けて、真紅の薄明や紫煙燻る暁を
愛でる。勿論雲を浮かべても雪を散らせても素敵だ。
永遠は約束できないのだから、
ありあわせの美を尊ぶ方が心には都合が良い。
お題「どこまでも続く青い空」
ひと一倍暑がりなので
衣替えという概念を正直わかっていない。
中学に上がる際に初めて長ズボンを履いたし、
あろうことか年中着るらしい。
ずっと汗でズボンを濡らしていた。
社会に出てから、10月からはどんなに暑かろうが
上着を着るのだと言われた。
ネクタイで皆酸欠なのだと言い聞かせて気を紛らわせた。
今何月か、という判断基準だけで服を選ぶなら
地球温暖化のことくらいもう少し真面目に考えたら?
お題「衣替え」
別れが多い生涯だったので、慣れていると思う。
子供の時分から引っ越しも何度もしたし、よく泣いた。
そのうち泣かずに淡々と別れられるようになった。
思春期に入ると一周回って、今生の別れをなんとなく察知できるようになった。
会いたくても、会えないひとの方が増えた。
独り立ちして社会に出てから、名前すら知らないひととばかり関わるようになった。
同じ町に住んでいるだろうけど、一言も交わすことはない通りすがりのひと。
電車のアナウンスをするいつもの駅員さん。
よく行く飯屋の大将。
行きつけのバーにいつもいる常連さん。
名前を知らないと、別れも早い。
別れには、慣れたつもりだった。
先日、身内が死んだ。
老衰の大往生だ。あまり話が通じなかったし、
そろそろだろうと覚悟はできていた、
つもりだった。
お題「声が枯れるまで」
友人が云った。
アイネクライネって曲が好きなんだ。
モーツァルトじゃなくて、米津玄師の方ね。
「今痛いくらい幸せな思い出が
いつか来るお別れを育てて歩く」
ひとは、ひとと別れざるを得ないのだから、
別れを主眼に置いて関係を育むらしい。
私も、彼に従うことにした。
はじめまして。
あなたと楽しい思い出を刻めればいいな。
別れる時はひと思いに
思い出をビリビリに引き裂くのかな。
それとも、感傷たっぷりで
思い出を一枚ずつめくってみせるのかな。
ともあれ、乾杯しよう。
新しい出会いと、ずっと先の別れに。
お題「始まりはいつも」