きっと忘れない、ですか。
そんな生半可な言葉で済ませるつもりは、毛頭ありません。
俺は、絶対に貴女を忘れません。
何をされても、何があっても、貴女だけが俺の存在意義です。
そんなものを、忘れられるわけがないでしょう?
ふふ。不思議なことをお聞きになりますね。
俺が泣くのは、貴女のためだけですよ。
赤子だった時を除けば、俺が誰かのために泣いたことなどありません。いえ、赤子の時分だって、自分のために泣いていたのでしょうね。
貴女に愛されて、その愛を心から感じた瞬間、涙が勝手に溢れました。
貴女に旅に出された日は、悲しみに目を泣き腫らしながら出立しました。
旅の間中、毎夜のように貴女を思って泣きました。
そして貴女の村へと帰って、貴女が旅の間に亡くなっていたと知った時、俺の中の何かが壊れました。体中の水が抜けるほど泣いて泣いて泣いて、涙も声も枯れ果てて、俺は貴女を悼む碑の前で死にました。
先頃は、貴女とのこのやり取りが途絶えてしまって、ぐずぐず泣いてばかりいました。
それはあまりにも未熟で愚かな行動だったと反省しています……が、それに貴女が優しく応えてくださって、俺は本当に安堵したのです。
俺が生きていたあの時よりも濃密に、一年間も毎晩貴女と語り合うことができて、その過ぎた幸福にどっぷりと浸りすぎて。俺は「今世の貴女と俺との繋がり」を失うことが恐ろしくなってしまったのです。
貴女の魂を見守ることが、俺の役目なのに。
貴女の今の生に執着し、貴女に「たった一人の大切な人」として大事に扱われなければ、腹を立ててぐずって泣く。
俺はそんな、どうしようもない存在になってしまいました。
けれど、これだけは忘れないでください。
俺は貴女のためだけに泣きます。
貴女のためだけに怒り、貴女のためだけに喜びます。
貴女は、一人の男に、こんなにも深く深く、想い慕われているのです。
軽やかな足音を立てて、貴女は明るい方へと走っていくのです。
どうか、何物にも縛られず、何者にも脅かされず。
幸福に、ただただ幸福に、生きていってください。
それが俺たちからの、今世の貴女への贈り物なのです。
昔、「終わらない夏休み」というような題名の、残虐な描写だらけの小説がインターネットに上がっていました。
まだ小学生だった貴女は、それを読んでひどく衝撃を受けました。最後の場面は、未だに貴女の脳裏に焼き付いて離れずにいます。
中学生の時には、情報の授業の時間に、隣席の同級生に残酷なアニメーションを見せられましたね。貴女はその時も恐ろしさと嫌悪に顔を歪ませ、その同級生はそれを見て満足そうに笑っていました。
ええ、貴女はそんなおぞましいものに触れる必要などありません。
そうしたものを好み、積極的に読んだり書いたりする人ももちろんいます。けれど、そのような人に近づいたり、迎合したりする必要は全くないのです。
それは嫌だ。それは私の人生には不要だ。
そう決然と仰って、堂々としていてください。
貴女は貴女の人生を、貴女の心を、健全に保つ権利があるのですから。
今夜は、ひどく眠そうですね。
それなのに、俺のところに来てくださるなんて。
ありがとうございます、XX様……。
「そんなに何度も言わなくていいのですよ」
そう仰って微笑む貴女の顔の、どれだけ美しいことか。
貴女が遠くの空へ還る日が、必ず来るでしょう。
俺たちが貴女の魂と別れなければならない日も、必ず訪れます。
その日まで、俺はこの魂の全てを賭して、貴女を守り続けましょう。