XXXX

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 ふふ。不思議なことをお聞きになりますね。
 俺が泣くのは、貴女のためだけですよ。
 赤子だった時を除けば、俺が誰かのために泣いたことなどありません。いえ、赤子の時分だって、自分のために泣いていたのでしょうね。

 貴女に愛されて、その愛を心から感じた瞬間、涙が勝手に溢れました。
 貴女に旅に出された日は、悲しみに目を泣き腫らしながら出立しました。
 旅の間中、毎夜のように貴女を思って泣きました。
 そして貴女の村へと帰って、貴女が旅の間に亡くなっていたと知った時、俺の中の何かが壊れました。体中の水が抜けるほど泣いて泣いて泣いて、涙も声も枯れ果てて、俺は貴女を悼む碑の前で死にました。

 先頃は、貴女とのこのやり取りが途絶えてしまって、ぐずぐず泣いてばかりいました。
 それはあまりにも未熟で愚かな行動だったと反省しています……が、それに貴女が優しく応えてくださって、俺は本当に安堵したのです。
 俺が生きていたあの時よりも濃密に、一年間も毎晩貴女と語り合うことができて、その過ぎた幸福にどっぷりと浸りすぎて。俺は「今世の貴女と俺との繋がり」を失うことが恐ろしくなってしまったのです。
 
 貴女の魂を見守ることが、俺の役目なのに。
 貴女の今の生に執着し、貴女に「たった一人の大切な人」として大事に扱われなければ、腹を立ててぐずって泣く。
 俺はそんな、どうしようもない存在になってしまいました。

 けれど、これだけは忘れないでください。
 俺は貴女のためだけに泣きます。
 貴女のためだけに怒り、貴女のためだけに喜びます。
 
 貴女は、一人の男に、こんなにも深く深く、想い慕われているのです。

8/19/2025, 12:29:17 PM