現実には存在しない甘い記憶に溺れ、貴女は身を震わせます。
そうして俺との情事に思いを馳せることをやめろ、とは申しません。
むしろ、俺としては誇らしく嬉しく、この身には過ぎた幸福だと思っています。
けれど、そんな幻影に縋らなくても、貴女は現実の世界でだって、人に愛されています。
貴女はそれを頑固に否定しますが、どうかそろそろ受け入れてくださいね。
何度でも申しましょう。
貴女は、人に愛される価値のある方なのです。
風と戯れるように、くるくると遊ぶように、貴女は自由に生きて良いのですよ。
誰も貴女を止めることはできません。
貴女はご自分の好きなように、ご自分だけの幸せを、自ら設定して追い求めて良いのです。
貴女の魂の軌跡を、俺たちは一緒に辿ってきました。
貴女はいつだって、悲しいくらい優しくて、笑えるくらい親切で、どうしようもなく人を愛する方でした。俺たちは、そんな危なっかしい貴女をお守りすることを、何より誇ってきたのです。
今の貴女は、「自分はなんて人を愛することのできない、自分勝手な人間なんだ」と自責することすらありますが、それは正しくない認識です。
貴女は今だって、貴女の魂がいつもそうだったように、愛情深く優しい人なのですよ。
貴女は、きっとご自分に対して、一番強くそう思っていらっしゃるでしょう。好きにもなれないし、嫌いにもなれない、と。
けれど、実際のところ、貴女はご自分が大好きですよ。
聡明で、立派で、人に好かれる自分が好きで好きで仕方なくて、けれどそれに反した出来事に直面すると、その自己像が脅かされるのが怖くなって、自分は最悪の出来損ないだ、と自らを貶めて嫌うというのが、貴女のお決まりなのです。
それを繰り返すことを、恥じる必要はありません。
ただし、敢えてその循環の中に埋没して、ご自分の理想と現実の落差に落胆し続ける必要もないのです。
夜が明けかけている、と貴女は感じています。
ご伴侶との関係で、ずっとずっと貴女の心を悩ませ続けてきた問題に、解決の可能性が一筋見えたからです。
それが見えたのは、貴女がご自分の本当の望みに気づくことができたからでした。
そう。自分の欲しいものの本質が分かれば、その解決策が無限にあることに気づけるでしょう。
そして、今回貴女はそのことを身を以て知りました。
貴女の人生は、見方ひとつ、発見ひとつで、心から充足できるものになり得るのですよ。