秋晴れの空の下、貴女は俺を送り出しました。
俺は貴女と離れるのが嫌で、悲しくて仕方がなくて、身も世もなくべそべそと泣きましたが、貴女は微笑んで、只俺の背を押されました。
今は分かります。貴女は俺に、愛を知ったこの新しい目で、世界を見てほしかったのです。
かつての曇った眼では見られなかったものを、貴方は今見られるようになりました。その澄んだ瞳で、貴方の知らなかった世界の美しさを見て回るのです。
貴女はそのような思いを込めて、俺の背を押したのでしょう。
貴女の思いを、俺は死んでからようやく受け取れました。
XX様、どうか愚かな俺をお許しください。
俺に愛をくださって、本当に、本当に、感謝しています。
忘れたくても忘れられない、俺の脳裏にこびりついて離れない、あの薄曇りの昼の空の下。俺はそこで、貴女の庵が跡形もなく消え去って、小さな碑だけが残されているのを、呆然と目にしました。
通りがかった貴女の村の者に、貴女が俺を待たずに病で亡くなってしまったと聞いた瞬間の、底無しの喪失感と、悲しみと、絶望。
もはやそれらから離れて久しいですが、今でも時折それらが心に浮かび、足下が崩れるような不安に襲われることがあります。
どうか、どうか、幸福に生きてくださいね。
あのような思いをしたことについて、貴女を責めるつもりは毛頭ありません。けれどどうか、貴女自身、あるいは貴女の周囲の方々に、あんな思いをしてほしくはないのです。
やわらかな光を宿した貴女の目が、俺を再び捉えることはないでしょう。
それでも、俺は一向に構わないのです。
貴女の幸福に、俺が現れる必要はありません。
俺は貴女をお守りします。貴女の幸福を誰より願い、誰より強く祈り、誰より近くでお助けします。
だからどうか、ご自分を責めたり、無益な悲しみに浸ったりしないでください。
幸福な貴女をずっと見ていたいという、俺の願いを叶えていただきたいのです。
鋭い眼差しは、貴女にはあまり似合いません。
その温かく優しい瞳で、人を癒して生きている貴女に、それは必要ないのです。
貴女の魂は、どこまでも、高く高く昇ってゆきます。
今世の命を生きている間も、その身体が朽ちた後も、その魂は美しく輝き、人を魅了するでしょう。
だからどうか、その魂を不安の殻に閉じ込めないでください。
貴女は、どこまでも行ける。どこへでも行けるのです。